想-white&black-M-12
「そうか。それがあのネックレスだったのか」
楓さんは納得したように静かに呟き、私は小さく頷く。
「あれを持って行くなんてそんなに大事な物だったのか? お前の持ち物にしてはずいぶんいい代物のようだったが」
確かにここに来る前から持っていた物の中では一番価値のあるものだろう。
だが私にとってはそれだけではない。
今となっては何にも代え難いとても大事な物なのだ。
「あれは私の母の形見なんです」
「花穂さんの?」
間宮 花穂、私の母の名前。
美しく、賢く、優しく、だが悪いことをすれば本気で叱ってくれた。
いつでも私を見守ってくれた。
まるで姉妹のように仲が良く、大好きで自慢の母だった。
昔は父と一緒にここで楓さんの家庭教師として訪れていたのだと聞いている。
まさかこんなところで繋がりがあるとは思わなかったが。
「母はあまりああいう宝石やアクセサリー類に興味のない人でしたけど、あれだけはいつも大事そうにしていました。それが亡くなる直前に私に渡されたんです」
「そうか。新しい物ではなさそうだがいいダイヤを使っている。大切にしろ」
そう言うと楓さんは髪にそっと口付けたのが伝わってきた。
「か、楓さん?」
「返事は?」
「は、はい。……ありがとうございます」
滅多にあることではないがこんな風に優しくされると勘違いしそうになる。
私のことを特別に想ってくれてるんじゃないかとあらぬ期待を抱いてしまう。
幸福感と諦観の紙一重のところで一喜一憂している私は、きっと端から見たら滑稽に違いない。
その時不意に回されていた手が肌を滑り上がってきた。