想-white&black-M-11
「でも、その、こんな明るい場所じゃ恥ずかしくて……」
「……はぁ」
私が楓さんの側に行くことを渋っていると、何を言っているんだとでも言うようにあからさまな溜め息を深くつかれた。
「今更恥ずかしがることなんかないだろう。普段してることじゃないか」
「それは……っ、そう、かもしれませんが……」
いつも一緒に入るときは大抵セックスの後、疲弊して動かない身体を抱えるようにして運ばれてしまうからだ。
反論することもできず俯いていると、水面が揺らめき私の上から影が差した。
反射的に顔を上げるとそこには静かに私を見つめてくる双眸があった。
「何も恥ずかしがる必要はない。その姿を見るのは俺だけだろ。いつまでも羞恥心を失わないのはお前らしいが、その身体を俺の前で隠そうとするな」
「で、でも……」
「お前の全てを目にできるのは俺だけだ。俺しか触れられることを許さない。それに……、お前は俺には逆らえない。違うか?」
初めに交わされたお互いの契約。
私を縛り付ける枷。
だがそれが甘く響いて聞こえるのは湯に浸かりすぎて、……楓さんに見つめられて頭がのぼせそうになってるからかもしれない。
日本人離れした色の瞳が私を映し出している。
至近距離でまっすぐ見つめられ、まるで催眠術にかかってしまったかのように気付けば頷いていた。
そんな風に言われたら抑えていた想いが余計に溢れ出してしまいそうだ。
「こっちに来い」
「あっ」
低い声が耳をくすぐったかと思うと、腕を引かれ背中から抱き締められるような形に座らされる。
触れ合った部分から自分の鼓動が伝わってしまいそうだった。
素肌が擦れ合う感覚に一気に体温が上昇する。
「それで? 麻斗はお前に何の用だったんだ」
一瞬の間の後、どこか固い声が私の耳に響く。
今までのやり取りが思いがけず穏やかだったせいか、あやうく忘れかけていた自分が恥ずかしい。
「忘れ物を……、届けに来てくれたんです。その、あの時、……麻斗さんの所にいた時の」
あの頃のことを口にするのは正直避けたかった。
楓さんも私もお互いその話題には意識してか触れないようにしてきたから。
ここから麻斗さんの手を借りて逃げ出したということは、今も楓さんの中で許し難いことでありまた私の中でも罪悪感に苛まれている。
例えそれがあの時そうしなければ耐えられそうになかったとしても、私は楓さんとの契約を破り裏切ったのだ。
そして手を貸したのが麻斗さんだという事実が結果的に私のせいで楓さんと麻斗さんの仲を傷つけてしまった。
そのことを思うとそんな資格もないが胸が痛んだ。