想-white&black-M-10
二人で風呂に入るなど初めてという訳ではない。
しかしだからと言って言われるがままにできるものでもないのだ。
「どうして一緒に入らなくちゃならないんですかっ」
自分なりの反抗心を示してみる。
だが楓さんは些細なそれをあっさりと流してしまった。
「ここまできて別々に入る必要もない。第一今更照れることもないだろうが。お互いの身体なんか見慣れてる、違うか?」
「そっ、それとこれとは話が違います」
何てことを言い出すのかと顔を真っ赤にさせて否定するも、楓さんはそんな私の様子すら面白そうに眺めていた。
「分かった分かった。俺の前で脱げとは言わない。先に入って待っててやるから早く来い」
「そんな……」
「分かってるとは思うが、俺に逆らうなよ。これでもあまり機嫌が良くないからな」
そう言い放つと楓さんはさっさと浴室へと姿を消してしまった。
一人取り残された私はどうすることもできずただその場で立ち尽くすだけ。
確かに身体は雨で冷えきってしまっているから早く温まりたい。
だが自ら服を脱いで入っていくなんて恥ずかしくて無理だとも思う。
しかし"逆らうな"というセリフと笑みを見せていたにも関わらず、未だが怒りが鎮まっていないことが私を悩ませる。
言うことを聞かなかった時のことを考えると背筋が寒くなるのを感じていた。
「………なぜそんなに離れてるんだ」
「だ、だって一応同じお湯に入ってますし。一緒に入ってることには変わりないじゃないですか」
そんなのただの言い訳だということは私も分かっているが、ついそんな言葉が口から出てしまう。
意を決してようやく足を踏み入れた私はできるだけ楓さんから離れた場所に背を向けて身を沈めていた。
広々とした浴槽に背を預けながら私を待っていた楓さんの声にありありと不満が滲み出ている。
「お前、俺を馬鹿にしてるんじゃないだろうな」
鋭い楓さんの視線が背中に突き刺さってくるのが分かる。
どうしたら彼を満足させるかは分かるのだがそんな勇気はない。
「おい、こっちを向け」
心臓が縮みあがりそうなほど低い声が浴室に響き、恐る恐る顔を後ろへ向けてみた。
無表情のまま自分の前を指差し、無言の圧力をかけてくる。