夏休みスペシャル-1
私には、ずっと想ってる人がいる。
彼と出会ったときのことは覚えていない。
物心ついたときには、もう哲は私の隣にいた。
そんな哲と離れてしまったのは、中学3年の春休みだった。
高校入学を機に、東京へ引っ越すことになった私は、この超がつくほどのド田舎を去ることになった。
想いを伝えようか迷ったが、「いつでも帰って来いよ」と屈託のない笑顔を向ける哲に、私はただ頷くことしかできなかった。
そして今日、私は2年ぶりに、ここ穴原村へ足を踏み入れる。
「キヨーーーー!」
6時間に1本しかないバスを目的地で降りると、かつての親友が首にまとわりついてきた。
「美佳!久しぶり。」
「も〜久しぶりすぎるよ!
なんか垢ぬけたなあ」
「そお?ぜんぜん変わってないよ?」
「いや〜変わった!訛りが東京人みたいだよ!」
懐かしいイントネーションで喋る彼女に、胸がキュっとなり涙が出そうになった。
ここの空気には、味がない。つまり、それは美味しいということで。
深く呼吸をすると、なんの躊躇いもなく肺に空気が届く。
やっぱり15年住んでいた故郷は懐かしい。
この場所が好きだと、再確認する。