ゆびさき-1
そっと…触れたくなる。
その綺麗な手に。
私を支えるその手は、温かいのか冷たいのか…。
………触れてみたい。
カツンー…カツンー…と、今日もエントランスに響く軽快なヒールの音。
専用のエレベーターで最上階を目指し、再びエレベーターのドアが開くと、いつもの声が私を出迎えた。
「社長、おはようございます」
秘書の門真(カドマ)が社長室のドアを開ける。
中に入るなり素早く私のコートを預かり、ハンガーに掛ける。
それは迅速かつ自然な流れで。
「相変わらず早いのね」
「社長がぎりぎりすぎるんですよ」
「昨日も接待で帰りが遅かったのよ」
「それはお疲れさまです」
朝から疲れきった体を高級なソファに投げ出した。
ついでに脱ぎ捨てたお気に入りのGUCCIのヒールが、コツンと音をたてながら転がった。
「ハーブティーです」
門真によって、ソファの前のローテーブルにお洒落なティーカップが置かれた。
この男は仕事が早い上に、紅茶のいれ方が抜群に上手いのだ。
ティーカップに添えられるすらっと長く細い綺麗な手。
私は横になりながらそのゆびさきを見つめた。
「本日の予定ですが…」
「あぁ、いいわ。後で目を通しておくから、そこに置いといて」
私がそう言うと、その綺麗な手は書類をデスクの上に置いた。
モデルのようにスタイルがよく、顔もいい。
あまり多くを語らない、ミステリアスな雰囲気。
仕事が早く、気遣いができる。
ついでにスーツのセンスもいい。
門真を秘書におくには十分な理由。