ゆびさき-5
「あんたはお酒の入れ方も上手いのね」
グラスをゆっくり回す門真はふっと色っぽく笑ってみせる。
「それが俺を秘書におく理由でしょ?」
私は手にしていたグラスをテーブルに置いた。
そして、綺麗にまとめていた夜会巻きを崩し、髪をおろした。
その方が…好きでしょう?
「理由なんていっぱいあるわ」
「へぇ」
「まず顔がいい」
「はははっ」
「お茶の入れ方が抜群に上手い…気遣いが上手い…スーツのセンスがいい…運転が上手い…口数が少ない」
「それっていいんですか?」
「男のお喋りは嫌いなの」
くっくっと門真はおかしそうに笑う。
その笑顔もいい。
でも何より……。
「あと、その…手」
「……手?」
冬の訪れを知らせる風が私の髪を揺らした。
顔に髪がかかり、私は首を振る。
すると、右側からあの手がすっとのびてきて、私の髪をかき上げた。
媚薬に…酔ってしまいそう。
「この手…ですか?」
私より一つ下の門真は妖艶な笑みを浮かべる。
媚薬のせいか、ふわふわする。
頭にあった門真の手がゆっくり下りてきて、そっと私の頬を包んだ。
その手は………温かかった。
「意外…手、温かいのね」
「絢音社長は冷たいですね…」
私が冷え性なことくらい知っているくせに。
いつも傍にいるくせに。