ゆびさき-4
「…ここは?」
「俺の部屋です」
ドアが開けられると、一斉に部屋の電気が自動で付いた。
随分リッチな部屋に済んでいるようだ。
広々としたリビングは驚くほど殺風景だった。
「何もないじゃない」
「最近引っ越したんで」
確かに、部屋の隅にまだいくつか荷物が置いてある。
門真は私の鞄を預かると、バルコニーへ案内した。
広いバルコニーにはお洒落な照明・テーブル・イス…そして観葉植物。
おまけにイスには用意周到にブランケットまでかけてある。
私がイスに座ると、テーブルの上ではガラス瓶に入ったキャンドルに灯がともされた。
部屋は殺風景のままなのに、バルコニーはしっかりセットされている。
おかしくて笑ってしまった。
「たまにはこういう飲み方もいいかと思いまして…」
そう言って門真はグラスとワインを持ってきた。
自炊道具は全く見当たらない代わりに、キッチンにはグラスとたくさんのお酒が並べられている。
「バーテンにでもなるつもり?」
「悪くないですね」
門真は何だか楽しそうにそう答えた。
長い指がワインボトルの底を包み、照明に照らされてキラキラと透けるワインはグラスへと注がれる。
赤い液体が媚薬のように感じる。
「では、今日もお疲れさまでした」
「お疲れ」
カキンと乾杯の音を鳴らし、ワインを口にする。
媚薬が体中に回っていく…。
いつも見てる門真の横顔が、大人の男の顔に見える。
それはきっと、仕事ではなくプライベートの時間だからだ。