ゆびさき-3
「この後も予定が一つ残ってるんだけど…ビジネス?それともプライベート?」
私がそう尋ねると、門真の肩が小さく揺れる。
そして、バックミラー越しにしっかり目が合った。
「プライベートに決まってるじゃないですか」
バックミラーに映る門真の目が、また弧をえがいた。
時折、街灯のオレンジの光が門真の顔を照らして、妙に色っぽい。
私は思わず目を逸らす。
お気に入りのピアスが耳もとで揺れる。
「そうね…プライベートね」
私のその言葉を合図に、門真はネクタイを緩めた。
私が"プライベート"と口にしたら業務の終了を意味し、そこからは社長と秘書ではなくなる。
だから、ネクタイを緩めることも、煙草を吸うことも許している。
煙草を吸いながら器用に片手でハンドルを回す。
その手をまた静かに見つめた。
行き先を告げぬまま車は走り続け、その快適な走りに私は眠りにおちた。
「絢音(アヤネ)社長」
目が覚めると、車はすでにどこかの地下の駐車場で停まっていた。
私は心地いいシートからゆっくり体を起こす。
「お疲れのところ、お誘いしてすいません」
ちっとも申し訳なくなさそうに、淡々と口を開く。
門真のそんな飄々とした態度に、私は呆れながら笑みを見せた。
疲れて眠ってしまったのももちろんだが、何も言わずに居てくれる門真との空間が心地いいのだ。
車から降りると、門真の後をついて建物の中に入った。
重厚感のあるエレベーターに乗り込み、綺麗な指が23階のランプをつけた。
一瞬で23階に到着した後は、門真がある部屋の前で鍵を取り出した。