ゆびさき-2
「門真、髪染めた?」
アシメのサラサラな髪が揺れる。
黒髪からダークブラウンになったことで、少しだけ優しい感じになる。
「この方が、社長がお好きかと思いまして」
スッと切れ長の目が弧をえがいた。
そのまま門真は静かに社長室を後にした。
私はけだるい体を起こし、紅茶を口にする……幸せのひと時だ。
ティーカップを片手にデスクの上に置かれた書類に目を通す。
今日も夜までびっしり予定が詰まっていて、朝から目眩がする。
「…あ」
活字でかかれた予定の一番下……手書きで予定が追加されている。
【22:30 よければ飲みにでも】
金曜日の夜は…最高ね。
23時前、仕事を終えた私は迎えを呼んだ。
まるで呼ばれるのを待っていたかのように、黒のシーマは目の前にすぐやって来た。
「社長、お疲れさまです」
車に乗り込んだ私に、門真はそう声をかける。
言い方を変えると、それだけしか声をかけない。
商談はどうでしたか?
うまくいきましたか?
この後どうされますか?
そんな余計なことは口にしない。
だからこの男を秘書にしたのだ。