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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:二部】二章:鐘の音-8

「ここに一人、心からお前を信じている者が居ることを忘れないでくれればよい。アルテア殿下の血をひいておらずとも、グリフィンを従えておらずとも、わしはお前が気に入っておる」ロイドはアランの手をぽんぽんと叩いて、立ち上がった。「それで、ユータルスに行くつもりか」

「必ず、帰ってきます」アランはロイドに約束した。ロイドと話す前には、ここに帰ってくるだろうということに、それほど自信が持てなかったのだが、いまははっきりとそう約束できた。

「無理に答えを見つけようとするな。答えは誰かからもらったり、誰かに頼まれてひねり出すものでもない。己に納得が行く瞬間は、予期せぬ形で訪れるものじゃ」





「まずはどこへ行く、アラン?僕は、どこまでだって行ける気がする。クラナドたちと一緒に旅をしていた時も、どこへだって行けたけど、今はアランが好きなところに行ける。皆にじろじろ見られることもないしね。どうしてみんなはあんなふうに僕を見るのかな?僕の考えていることが顔に出るせい?どう思う、アラン?」アラスデアが言った。仲間の野営地からはかなり離れた場所まで来たから、もう声を落とす必要はないのに、巨体の彼はまだひそひそと、器用に囁き声で話した。

「行き先は決めてない。それと、みんながお前を見るのは、多分、珍しいからだ」アランは、ぼんやりと森の景色を眺めながら歩いた。2人きりで歩く森は、妙に広く感じられる。目的もなく森をふらつけば、思いも寄らないところを彷徨ったあげくに、2度とそこから出られなくなってしまうと言うのが師の忠告だったが、アラン達が迷うことはないだろう。

 歩を進めながら、森を満たし始めた春の匂いを吸い込む。つぶれた草のはなつみずみずしい芳香や、湿った土の深い薫り。雨が降らない日の方が珍しいこの地方では、太陽を形容する言葉に事欠かない。人見知り、出不精、恥ずかしがり屋、人間嫌い、気まぐれ――そのどれをとっても正しい。太陽は、顔を出したと思ったらまたすぐに雲の後に引っ込んでしまう。今日もやはり空は曇っていて、森全体に覆い被さるように重々しかった。

「ユータルスが危ない」その言葉を、どうして信じる気になったのだろう。確かめることばかり考えていたせいで、理由を深く考えはしなかった。しかし今、ただ北西を目指して闇雲に森の中を歩いていると、どうして自分はここにいるのかと考える以外にやることがなかった。

 逃げたわけではない。自分でどこまで出来るか、何が出来るか、試してみたかったのかも知れない。仲間と一緒にいる時、ロイドにとって自分は弟子で、グリーアにとっては弟のようなもので……そして、王だった。自分の未熟さを痛感しながら、誰よりも高い所に君臨しようと思うのは難しい。だから、しばらく一人になって。どこまで行けるか、試してみたい。そうすればやがて、予期せぬ形で「その瞬間」が訪れるかもしれない。

「まずはテネンナムに行こう」アランが言うと、アラスデアはおもしろそうにふんふんと鼻を鳴らした。

「大きな街だね。きっと賑やかで、いろんな店がある」アランの考えていることをずばり言い当てる。神話に描かれた兄弟は、共犯者のように笑みを交わした。人の大勢いる街には、よほどのことがない限り、ロイドに入ることを禁じられていたのだ。それを思い出し、アランはしかつめらしい表情を取り繕って言った。


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