【イムラヴァ:二部】二章:鐘の音-6
「おうよ」彼は請け負って、ぐっと酒をあおった。「ここだけの話だがね、マクレイヴンには、奴らの正当な後継者にだけ秘密の印が現れるんだ。俺はそれを見た。だから知ってる」
「それって、どういうものなの?」アランが聞くと、ロスは肩をすくめた。
「カラスの羽さ。目の下にカラスの羽の入れ墨がはいってる。それが動かぬ証拠ってやつだ」
「グリーア、マクレイヴンは死んだんじゃないのか?」アランが小さな声で聞いた。グリーアの顔は強ばったままだ。
「死んだ。そのはずだ」
「彼には、何か印があった?」
グリーアがうなずいた。「ああ。間違いない」ロスはグリーアの内面に渦巻く困惑に頓着しないで陽気に続けた。
「そいつはヘリントンの宮殿の、王様の次に豪華な部屋にいて、荒れ地の小屋づくりと、化け物の軍隊の指揮を執ってる。そいつが怪物共をおとなしくさせてんだろう。なんてったって、やつはエレンの人間だ、それも、悪名高い渡り烏の一族だろ。エレンの怪物と仲良くするのはお手のもんだ」ロスがおかしそうに笑うので、グリーアはつい声を荒げた。
「黙れ!」
ロスはしょげた犬のように両手でグラスを持ち、肩をすぼめた。アランは慌ててロスに話しかけた。ここで機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。
「最後に彼を見たのはいつ、何処で?」
「3ヶ月ほど前さ。何処でって質問にゃ、悪いが答えられねえ……この家業ならでわの秘密って奴でね」ロスは肩をすくめて弱々しく微笑んだ。さっきまでの陽気さは消え去っていた。「酒、ありがとうよ」グリーアはかたくなに視線を落としていた。テーブルの下の自分の膝を見透かそうとするように、微動だにしない。
「こっちこそ、恩に着るよ」アランが言った。「これ、よかったら」アランは、そう言って3レーを差し出した。ロスは、金貨を見て、アランを見て、それからもう一度金貨を見て、ようやくそれを手にした。
「あんた、良い奴だね」肩をすくめたアランに、彼は聞いた。「どこから来た?」
「ユータルスだ。あのあたりが最近どうなってるか、何か知ってる?」
男はさっと表情を曇らせた。「ああ……」アランは何かを察して、再び立ち上がった。
「アラン!」グリーアはアランを制したが、彼女は聞いていなかった。
「何かあるのか?」
「ユータルス、気をつけた方が良い……」彼は、先ほどアランが話をしていた相手とは思えないほど、歯切れの悪い、沈んだ口調で言った。「あそこは、もうすぐ無くなっちまうと思う」
帰り道、グリーアはしきりに言った。気にするな、あいつはチグナラだから、と。しかし、その事実は余計にアランを不安にさせた。チグナラは何かを知っている。グリーアにルウェレンの占いをしたのもチグナラ、この間であった老婆が、今日会って話した男と同じ事を言った。彼女を怖がらせるのが目的の単なるデマにしても、赤の他人が全く同じ事を口にするだろうか?それとも、本当はあの2人はぐるで、これはチグナラが楽しむ壮大な喜劇なのか?
アランには分からなかった。分からなかったから、真偽を確かめるために、一人で出発することにしたのだ。