邪愁(その2)-1
「…ええ…ダンナ…今、ひとり入ってますよ…歳は三十五歳…色白の美人で、からだもダンナ好
みのむっちりしたいい女ですよ…
…えっ、もっと若い女がいいって…まったく、ダンナも贅沢だぜ…最近は、なかなか若いのは入
らないですよ…今回は、この女で勘弁してくださいよ…」
浅黒い肌をした家畜小屋の男が、萎えたペニスをだらりと垂らしたまま、黒い電話で話をして
いる。その男の先の窓の向こうには、まだ眠ったままの密林と点在する湿原湖が黎明につつまれ、
空には微かに煌めく星が、光の残滓となって散りばめられていた。
「…この前の四十五歳の女は、どうしたのかって…ああ、あの眼鏡をかけたハイスクールの教師
をしていたインテリ女ですか…買い手がつきそうもないので、今、家畜小屋に豚といっしょに放
り込んでますよ…ときどき、豚とセックスさせたら、泣いて悦んでますね…
…今夜あたり、野鳥の餌にしようかと思ってます…素っ裸で、密林の木の枝に逆さ吊りにして
おきますよ…豚の精液をたっぷり塗ったからだには、野鳥たちがおもしろいほど群がってきて、
一晩で喰い荒らしていきますよ…
…野鳥どもの嘴で乳首と性器を啄まれて、尻を振りながら、悶え叫んで、絶頂に登りつめる女の
姿は、実にいい眺めです…ダンナにも、見せたいものですよ…」
…ちぇっ…まったくふざけた野郎だぜ…女の値段を値切ってきやがった…
男は小声で呟き、受話器を置くとため息をつき、ゆっくりと硬い木のベッドの上に縛りつけられ
た私の体に寄り添う。
「…奥様…悦んでください…とりあえず買い手がつきましたよ…明日の夕方、あなたを引き取り
にくるそうです…」
ペンキが剥げた壁にかけられた鏡に、男の痩せた浅黒い姿態が映る。
頬がこけた顔は、虚ろで酷薄な瞳が気怠く光り、奇妙な顎が突き出していた。骨が浮いた薄い胸
と括れた貧相な下半身…その太股の付け根のペニスのまわりの縮れた陰毛が、どこか荒涼とした
草原を想わせた。
細いペニスは、柔らかさを保ちながら、長く肥大している。男根というより煤黒くぬるぬるとし
た軟体動物の裂けた臓物そのものだった。
ベッドに手首を縄で縛りつけられた私の裸体に、男の浅黒い肌が、ぬかるんだ嘔吐のような体液
とともにねっとりと絡む。
濃い眉毛をもち、口髭を生やしたその男は、淫靡な笑いを浮かべながら、高々と掲げた私の足の
指をいつものように唇でしゃぶり始める。
足の指のあいだに絡む男の蛞蝓のような舌の動きとともに、男が吐き出す荒い息を、私は脚の指
に感じる。男の舌は、足の甲から細い足首を這いまわり、彼の湿った掌が、私の脚のふくらはぎ
から膝を愛しく撫でる。