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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:二部】一章:暗雲と煙-14

「何を怖がってるんだ、アラン?」グリーアがアランの両肩に手を置いた。始めて彼女と向き合った彼の顔には、狂おしい懇願の表情があった。自分の将来が、故国の未来が目の前で崩れてゆくのを目にしながら、何も出来ないで居る男の切望がありありと現れていた。しかも、その惨状を救えるかも知れない希望は目の前にあるのだ。

「お前は王の血をひいている。国が滅びに瀕している時に、何かしたいと……そう望む誰もがほしがっているものを、お前は持っているんだよ。そのお前が、失敗を怖がって引きこもっていたら、救えるものも救えないん。こうしている間にも、トルヘアはエレンに手を伸ばしている。一歩ずつ、でも、確かに近づいているんだ。そして俺たちが森で燻っている間に、祖国は、エレンはじわじわと死んでいく。アラン、そうしたらエレンは二度と蘇らない。死ぬんだ」

「私に何が出来る?」聞こえた声は泣き声に近かった。弱々しい囁き声が、彼女の怖れを何よりも如実に語っていた。「何も出来ないよ!」

「だから俺たちが居るんだ。ロイドが居る、マーセラも、生き残ったエレンの民は無力な百姓ばかりじゃないぞ」

 アランはうつむいたまま、答えを返すことが出来ずにいた。グリーアの求める答えは余りに重すぎる。頭では分かっていることを、心にも理解させるのは難しい。沈黙が続いた。その間にも、夜の音だけが絶え間なく聞こえていて、まるで2人を中心に時が止まってしまったような感覚がした。口に出せば、嘘でも口に出せばグリーアを救うことが出来る。それに、もしかしたら、エレンの民も?しかし、心が嘘をついていることがわかってしまったら、今以上に彼を、そして自分を傷つけることになるのは分かっていた。だから、彼女は言葉にすることが、認めることが出来なかった。自分が王の正統な娘であり、エレンを救う希望の旗手になると。

「アラン」グリーアが立ち上がった。「お前には、立ち上る煙が見えないか?きな臭い匂いを嗅ぐことが出来ないか?すでに、炎は生まれたんだ。いずれ、この森の全てを焼き払う炎が。トルヘアが起こした火種に、荒っぽいクラナドが薪を足し、風を送る。その炎が万人の目に映るほど大きくなった時には、もう手遅れなんだ。誰にも、それを消すことなんかできやしない――やるしかなくなる。戦いが始まる時は、お前が王になるかを決する時だ。その時になってもまだ決心がつかなかったら……アラスデアを俺に残してどこへなりとも行け」グリーアは立ち上がると、うつむいたままのアランを見下ろした。

「マクレイヴンにとって、お前は希望だったよ、アラン。命を賭けてお前を守った……お前が、そうするに足る王になれると思っていたからだ」

 彼は背を向けて、残り火の弱々しい光が届かない暗闇の奥へと姿を消した。木々の枝葉の間から、ほぐした絹糸のようなつややかな雲が、木々の影に隠れたままの月の光を纏って白く輝いているのが見えた。絶えず動き、形を変える。月の踊るのに会わせて揺れるドレスのように。アランは目を閉じて、ひどくゆっくりとした動作で、アラスデアの腹に再び頭を憩わせた。アラスデアもアランも、朝が来るまで一言もしゃべらなかった。


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