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昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

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昏い森-12

血液が驚くほどの早さで、森羅の体外へ溢れ出す。

寒い。

目の前にいるはずの暁の姿が霞んでもう、見えない。

嗚呼。
だけど。

悪くなかった。

一瞬だけだったが、手に入れた伴侶の妙味なる血の味と唇の感触を薄れゆく意識の中で、森羅は思い出していた。



海のように夥しい血が流れ、徐々に冷たくなっていく森羅を抱きながら、暁は己の罪深さに恐怖すら感じた。

森羅を貫いた感触が手に残り、震えが止まらない。


だが、後悔はしていなかった。


森羅はやがて人の姿から獣に戻り、息絶えるとそれも崩れ、もろもろと粒子状になって暁の手から溢れた。
白く、淡く発光しているようなそれらは一陣の風が吹くと一粒残らず、霧散した。

あの夥しい血さえも、どこかへ消え、畳の上には森羅を貫いた重い錫の刀が不穏に煌めいているだけだった。

森羅が存在していたことなどなかったかのようだ。



暁は惚けたように、そのまま座っていたが、立ち上がると屋敷の外へ出た。


驚くべきことにすでに明け方が近いようで、東の空が闇から白っぽく転じようとしている。

暁の眼前に広がる森は、鳥の鳴き声ひとつせず、静かに夜が明けるのを待っていた。


そっと歩き出すと朝露に濡れた柔らかい草が暁の足をくすぐる。



何か変わったのだろうか。


暁は贄の定めから外れたのだろうか。森から干渉を受けることのない、人間の娘に戻れたのか。
それとも、次の森の覇者が再び暁を求めるのだろうか。


しかし、暁はもう恐れはしなかった。



静まりかえった森に向う。

暗夜を探そう。

暗夜に会うのだ。


暁が普通の人間になってしまっていたとしたら、暗夜を見ることはできないかもしれない。


それでも。
何年、何十年かかろうとも、暁は暗夜を探すだろう。


一睡もしていなかったが、疲れは感じなかった。


悪い熱病に浮かされたように、暁は薄暗い森に分け入った。






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