昏い森-11
燃えるように紅い、森羅の血液を飲み干した、暁は、自らも短刀を持ち、左腕を切りつけた。
だが、傷が浅かったのか、碗へ注げるほどの血液が出ない。
仕方なく、もう一度と刀を手にしたとき、森羅がその腕を捉え、傷口に唇を寄せた。
吸うように直接、暁の血を味わう。
傷口はずきずきと痛んだが、森羅の唇が触れた部分は膿んだように熱かった。
森羅は暁の血をゆっくりと口に含み、その甘美な味に恍惚として思わず、呟いた。
「美味い」
やっとのことで手に入れた伴侶と妙味をもっと味わいたくて、再び暁の腕に口付ける。
僅かに暁が身動ぎする。
森羅はなおも血を味わいながら上目使いに暁をみると、苦し気に眉が歪んでいる。
もっと浴びるほどに飲みたかった。
だが、摂取し過ぎては、贄の血は毒となる。
名残惜し気に森羅は腕を放した。
「これで、お前は俺のものだ」
やっと願いが叶ったのだ。
森羅は嬉しかった。
何百年という長い日々をこれまで一匹で過ごしてきた。
森の長には伴侶も仲間もない。
前の贄は寸前で森羅の前から消えた。
自分だけをみてくれる、そんな相手が森羅は欲しかった。
目の前で震えている、暁はいかにも小さくて儚い。
腕を延ばして抱きしめると、温かかった。
暁の顔を覗き込むと、黒々と濡れたような瞳には森羅が映っている。
森羅はそのままゆっくりと距離をつめて、暁に口付けた。
暁は驚いたように目を見開いたが、森羅が深く口付けるとやがて諦めるように瞳を閉じた。
そして、ゆっくりと暁を畳に横たえようとした時、森羅は自分の左腹に衝撃を感じた。
暁から自分の身体に視線を転じると、硬いものが森羅の腹を貫いていた。
さっき暁に与えたばかりなのに、また血が噴き出し、柄を握った暁の手をも徐々に紅く染めていく。
「…暁」
暁は蒼白な顔で泣きながらも、柄から手を放しはしなかった。
―何でだ。
せっかく手に入れたと思ったのに。
結局。
俺の欲しいものは絶対に手に入らないのだ―。