ラプンツェルブルー 第10話-4
「お騒がせしてごめんなさい。それから」
ぺこりと下げられた頭は起きたものの、再びざわざわと合いの手のような葉擦れの音を聞きながら沈黙。
「やっぱり津田くんは訊かないのね」
たっぷり沈黙を味わってから、溜め息混じりの相手がそれを破る。
女の子って、どうしてこうも扱いを持て余すものか。
聞けば拗ねるし、聞かなくても拗ねる。
この僕にどうしろと?
「いや。普通言いたきゃ言うだろ?言いたくないものをこっちから言わせる趣味とかないから」
俯いた彼女からクスクスと笑う声。
「やっぱり基本はお節介じゃないんだよね」
「基本はね」
「最初はお節介なのに冷たいひとだと思ったけど、津田くんなりの思いやりと優しさなんだよね」
うわ。それって狙っての発言なのか?
顔を上げた彼女が穏やかに微笑んだから今度は僕が俯く番になった。
「本人を前に言うか?それ」
あんまり気恥ずかしいやら悔しいやらで、お望みどおり
「……で、本題は?」
と切り出してやる。
幾分ぶっきらぼうなのは致し方ない。
「さっきの」
「さっきの?」
「……穴から出る時に言ってたこと」
言った方も聞いた方も顔から火を噴く。
「ああ……あれ」
彼女は俯き、僕は空を仰ぎ再び沈黙。
「勢いっぽかったけど、はずみとかじゃないから」
「うん」
「でも、傷心につけこむとか、そういうつもり全くないから」
同じく返ってきた今度の「うん」はくすくす混じり。
「それから、今すぐ返事とかいらないから。てかぶっちゃけ今返ってくる答えなんて分かりきってるから、聞きたくもないし」
これには、もうくすくすと笑う声しか聞こえない。
「聞いてみるけど、まだ、イヤなのか?……その、髪の色とか目の色とか」
不意に笑う声がやんだ。
ヘーゼルナッツの瞳が僕の姿を映し出す。
「早川はまだイヤかもしれないけどさ。俺は……綺麗だし、早川に似合ってていいと思うよ、それ。だから髪、切ったりするなよ」
ああ、どこまでもお節介!
完全に僕のキャラクターから掛け離れている。
うぅ。むずむずといたたまれなくなってきたぞ。
つい……と僕は彼女の瞳から逃げる。酷く速くビートする心拍がやたら、熱くなった耳に響いて落ち着かない。
「は、ハラ減った。帰るぞ」
まだ驚いたままの彼女の返事も待たず、僕は大きな歩幅でケヤキの森に背をむけた。
ようやく彼女が、「うん」と返事するのを聞きながら。