ラプンツェルブルー 第10話-2
我ながら、随分とムチャをしたものだとは思ったが、さいわいにして落下点が土であるおかげで、着地は思うほどの衝撃ではなかったものの
「うっわ」
頭上から降ってくる土と立ちのぼる土煙を容赦なく浴びる羽目になった。
上下からのそれがおさまるまで、彼女を引き寄せてかばうと、目も口も閉じて砂嵐が去るのをやり過ごす。
頭上から降ってくる砂の気配が無くなってから、僕らは恐る恐る目を開け、引き寄せたままの細い身体を解放した。
「大丈夫か?ケガとか」
「うん。大丈夫みたい」
彼女がひたむきに掘った深淵は、上から見下ろすより広く、僕ら二人をすっかり飲み込んで余るほどの大きさだった。
とはいえ取り囲む土壁に圧される気がして、背中合わせの僕らは、いつもよりずいぶん近い距離で空を仰ぐ。
「飛び込んでこの有様だったら、更に土をかけられるなんてとんでもないんじゃないか?」
「津田くんまで埋められなくてもいいのに」
「俺をお尋ね者にするのがイヤなんだろ?」
「さっきは古い言葉だって言ってたクセに」
「俺の夢の住人の話は『むかしむかしあるところに』で始まるからな」
いんいんと響く互いの声を聞きながら深淵の底から見る空は青くて遠い。
「誰が土をかけるの?」
「そこまでは考えてなかった。誰か来れば埋めてくれるかもな」
半身を捻って彼女の頭にかかった土をはらってやりながら、彼女は僕に土をはらわれながら……最初はクスクスと小さく始まり
「それはムリだな」
と僕がつっこんだのを引き金にして背中合わせのまま、一斉に大きな声をあげて笑ったのだった。
深淵から空に響く笑い声。
きっと他からみれば不気味にちがいないが構うもんか。
ひとしきり腹筋が痛むくらいに笑った後、肩で息をつきながら僕らは再び背中合わせのまま空を仰いだ。
やはり空は遠く青い。
しばらく無言でそうしてから、僕は大きく息を吐いて切り出した。
「ちょっとだけでも埋められたんだし、これでよしとしようぜ」
「埋められたのかどうかは別として、第三者は巻き込めないものね」
と彼女。
「こんな事に加わらないだろう?フツー第三者はさ」
足をかける場所を探しながら、突っ込んでやる僕の後ろでクスクスと笑う声が響く。
あんなに泣いてたのはついさっきの事。
笑う声に嘘は混じってなくて、僕は密かに安堵していた。