【イムラヴァ:一部】第十三章 鷹の娘-13
「ただ、旅がしたかったから。私は自由がほしいんです。異端狩りから逃げ続け、いつ嘘がばれるかとひやひやしながら城で暮らすのは嫌だから……」
「何が嘘なのかの?」アランの必死の抵抗を風と流すようにさりげない顔をして、ロイドは言った。いつも通り、この世の全てを掌握しているような底知れぬ表情をしていた。
「それは……私が本当は、その、王の子供であると言うこととか……」
「それで、わしらと共に旅をしながら、また嘘をつき続けるつもりだったと?」
「そうは言ってないでしょう!」アランはいらだたしげに頭を掻いた。「自分の居場所をどこかに探しに行こうと思うことが、そんなにいけないことですか?エレンの王のところに生まれたら、どうしても王にならないといけないんですか?たとえ、それが、もう二度と人の住めないような国だったとしても?」
最後の言葉に、グリーアがわずかに身じろぎした。自分が残酷なことを言っているとわかっていながらも、口をついて出る言葉を止めることは出来なかった。
「あなた方は王を探している。何のために?トルヘアに散らばって、いじめられている人たちの希望の星に祭り上げるためにですか?でも、それでどうなるんです、エレンにはもう戻れない!今更、王が帰ってきたって、どうにもならないんだ!」アランは、肩で息をして、自分が逃げるための手は、全て打ったと思った。そして、ロイドの顔に失望が浮かぶのをじっと待った。
「よかろう」彼は言った。その顔には、失望など微塵も浮かんでいない。むしろ瞳を輝かせてアランを見ている。生まれたての猟犬を見る時のような、期待に満ちた眼差しだった。
「わしらが、あんたの居場所とやらを見つける手伝いをして進ぜよう。いろいろなところに連れて行き、いろいろな人に会わせて見聞を広める助けをする。どうにもならないかどうか、その目で確かめると良かろう」
アランはいぶかしげに、ロイドの表情を伺った。「その代わり?」
「その代わり、あんたにはグリーアと一緒にわしの生徒になってもらう」彼は断乎として言った。「その上で、自分が何者であるのかを選ばれるがよい。だが、それまでは決して、自分が王ではないなどと決めつけなさるな。そして軽々しく、自分が王であるとも思ってはならぬ。あんたは王になるには未熟すぎ、王にならないと決めつけるには無知すぎる。わしは教え子には容赦はせんぞ。厳しい師としてあんたを鍛えるとする。それでもよいかな?」
「もちろん」アランも挑戦的な眼差しを返した。
かつて黄金の太陽が、彼女の祖先の瞳を染めた。幾星霜経ても、その煌めきは曇ってはいない。霞んではいない。彼女の小さな背中には、未熟な翼が生えている。空を飛ぶにはあまりにお粗末で、風の言葉を聞き取る耳もない。ロイド・ライサンダーに課せられた使命は、この若い雛を空に飛ばすことだ。未だ昏い蒼穹へと。
太陽を再び、エレンの民にもたらすために。