【イムラヴァ:一部】第十三章 鷹の娘-12
「あなたはエレンの王の娘」ロイドが立ち上がり、厳かに言った。「わしらが探し求めていたお方じゃ」
「違う!嘘だ!私は口から出任せを言っただけだ!どうしてこうも簡単に、私の言葉を信じるんです?」
「わしらには確信があった」ロイドはアランの言葉に耳を貸さずに言った。「チグナラの占い師が、かつてわしらに言ったのじゃよ、わしらの探し求める者はユータルスにいると」
「それはもう聞きましたよ」アランが憮然と言った。「でも、探し求めていたというのは嘘でしょう?エレンの王の娘は死んだ。誰もがそう信じ……知っていたはずです」
「わしらは知っていた……他ならぬ、その娘を助け出した男から話を聞いたのじゃから」
「じゃあ、マクレイヴンを知ってるの?」アランは思わず口走った。ロイドはうなずいた。
「彼は死んだ」グリーアが、ぽつりと言った。
「死んだ……」アランは呆然と繰り返した。「死んだって?いつ?」
「あの焼き討ちで。アレクは俺たちを助けて死んだ……将来の王を見つけて、守れと、俺たちに言い残して」
「そんな……」膝から力が抜けそうになる。両足がわなわなと震えていた。
「王の嫡子が生きていると言う話を聞いたのは、その時が最初で、最後じゃった」ロイドは、まっすぐにアランの目を見た。マクレイヴンの死が、アランにどれだけの衝撃を与えたのかをはかろうとするかのように、その目はじっと彼女に注がれていた。それでも、アランは刃のように心に突き刺さった真実を無視しようとしていた。
「アラスデアをご覧なされ」ロイドがゆっくりと顔を上げて、厳かに言った。
「先日お話ししましたじゃろう。グリフィンの物語を……そして、心優しきその弟の話を」
「それが一体――」ロイドはアランを遮った。
「グリフィンは、エレンの王以外の何者にも跪かぬ。エレンの王以外に彼らの言葉を解するものも居らぬ……彼らは、エレンの王を守るために存在しているのじゃから」
ロイドの言葉に、アラスデアは喉の奥で満足げな音を立てて同意した。アランは苦々しく思った。裏切り者、お前まで私を王様扱いするのか?ロイドも、グリーアも、ハーディもアランを見ていた。心の中で、朽ちかけた石像を思った。全ての秘密を石の心の内に隠して、穏やかな微笑を浮かべる石像。
「わかりましたよ」アランは言った。「確かに、どうやら私は王の血を継いでいるようです。でも、私は王になどなりたくないし、その資格もない」
「貴方以外の誰にその資格があるんです?」グリーアが言った。
「その気色悪い話し方をやめてくれませんかね、フィッツスナイプ殿」アランは険悪な目つきで見下ろした。「とにかく、私は王にはならない。私はただのアラン・ルウェレンだ」
「なら、どうして我々を助け、共に旅をしようと思ったのじゃ?」ロイドは冷静に言った。アランは気むずかしげに腕を組んだまま、うなり声のようなものをあげた。そのうち、犬のように吠え始め、誰彼構わず噛みつくようになるに違いない。