ラプンツェルブルー 第9話-1
『津田くん?』
電話の向こうのアルトは、塔から落ちる直前に聞いたそれと同じ響きで僕の耳に届いた。
声の主はその後、休みの今朝、僕の携帯が繋がらなくて家に電話したことを詫びた後、さっぱりとした声で本題をきりだしたのだった。
『これから埋める事にしたの』
と。
ふいに僕の仮説が頭をよぎる。
僕は受話器を耳に付けたまま、最終宣告を受ける囚人の如く目を強く閉じる。そして再びその目を開けた。
こうして僕に連絡をよこしてきた事で、全くのお手上げではないかもしれないと、期待は少なめをモットーとする僕の何処かが告げている。
「今、どこ?」
『もう公園にいるわ』
そして数分後、慌ただしく支度を済ませて僕は走っている。
ありえない。
僕の仮説はあまりにセンチメンタル過ぎていて、しかも非現実的だ。
と、僕の中で僕が嘲う。
確かに。
ドラマや映画にありがちの安っぽいヒロイズムじゃないか。
と、僕の中で僕が肯く。
なのに、
僕は走っている。
走りながら思い浮かぶのは、深淵を掘り終えたあの日の帰路。
彼女はアイスクリームショップの前で足を止めた。
「津田くんは甘いものを食べる人?」
彼女の眺める店内は寒さなどお構いなしに、女の子たちで賑わっている。
僕は彼女と自分をひととおり確かめてから頷いた。
「土とか付いてないし大丈夫だな。じゃ、行こうぜ」
「え?」
彼女の返事を待たず店のドアをくぐった僕に彼女も慌てて従う。
しばらくの後、僕らはアイスクリーム片手に、再び店の外へ。
「それ、美味しい?」
と聞くのへ、答える替わりに店内でもらったスプーンですくって、ほら。と彼女に差し出す。
スプーンを受け取って口に運び、いつにない幼い表情で笑う彼女から思わず目を逸らす。
再びアイスクリームを口にするフリを装って。
雪の舞う通りで口にするアイスクリームは、凍えるくらい冷たいはずなのに。
僕は不思議とそれを心地好く感じていた。