ラプンツェルブルー 第8話-1
僕の頬を撫でていく強い風に、いつもの場所に立っている事を知らされる。
そう、他力本願な彼女の住む『あの夢』の中に僕は立っていた。
けれどいつもと様子が違う事に、僕は居心地の悪さを感じていた。ここが僕の夢である事を悟るには少しばかり遅すぎる。
広がるのはいつもの見慣れた風景だった。風に乗って聞こえて来る彼女の歌声も、葉擦れの音も何一つ変わらない。
なのに違和感を感じてしまうのだ。
そんな僕なんてお構いなしに、暢気な彼女がいつもと変わらぬ様子で僕を迎えてくれるものだから
油断をしたのかもしれない。
やはり彼女の部屋を見回しても、いばらの蔓は見当たらない。
まったく王子は何処をほっつき歩いているのやら。
ハサミを差し出しながら、よく考えると、ここでの僕はお節介で懲りないヤツなのだ。暢気な王子の事を言えたもんじゃないな。……などと暢気に考えていて。
もろにカウンターをくらったのだった。
それは「ねぇ」とのんびりとしたソプラノで始まった。
「いつもあなたはわたしにハサミを勧めるけど」
まさか、だった。
「あなたがわたしを連れ出す。という選択肢はないのかしら?」
鼓動が大きく跳ねて
思考停止。
たっぷり10秒は固まっただろうか。
いつもならこれは彼女のターンのはず。
ここのところ、僕はこのテの女の子に不意打ちをくらわされっぱなしだ……などと考える余裕など、僕にはすっかりなくて。
「……は?」
ようやく出た声は、判りやすいくらいに上ずっていて取り繕う術さえない。
「いつも思っていたの。わたしに塔から出る事を勧めるなら、あなたがここから連れ出してくれればいいのにって」
ここは、一体何処だ?
提案した名案に誇らしげな様子のこの人は、一体誰なんだろう?
相変わらず他力本願にはちがいないが、随分色合いが違う。
やはり、気のせいなどではなかったのだ。
ここは、いつもの夢とは違う。
知らないうちにおとぎ話の王子に仕立てあげられるなんて、イレギュラーにも程がある。