ラプンツェルブルー 第8話-3
「さぁ、これで何処にでも行けるわ」
それは、にわかショートヘアの栗色の髪を風にそよがせるがまま、森中に高らかに宣言するような強さで。
まるで現実の『彼女』と見紛うほど。
「そうでしょう?」
津田君。
柔らかいアルトで彼女が僕の名を口にした刹那。
突如僕の足元はすっかり消え失せていた。
塔の窓まで『飛んで』降りたのが嘘のように落下していく。
。
落下点に待つのは、公園のケヤキの足元にぽっかりと口を開けたあの深淵。
すべてがスローモーションのように流れていく。
搭の屋根にたたずみ、堕ちていく僕を見つめるその人は相変わらず無邪気に微笑んでいて。
「早川っ!」
どすん。
鈍い音と確かな衝撃に目を開けると、落下地点から広がる視界に、母が天地を逆にして立っていた。
「寛。その早川さんから電話よ。……どうやったらそんな風にベッドから落ちるの?」
と、僕に受話器を手渡したのだった。