ラプンツェルブルー 第8話-2
僕が
彼女を
連れ出す。
そんな事、一度でさえ考えたりしなかったのに。
だってそうだろう?
ただ、おとぎばなしの無駄なアクションにとどめを刺したかっただけなのだから。
僕のポジションは無責任な傍観者。
それ以上にもそれ以外にもなるつもりはなかったのだから。
ひどく永く感じられた僅かな逡巡の末、僕はのろのろびくびくとハサミを持たない方の手を差し出した。
まるで呪いでもかけられたように、思考と行動はバラバラで。
ふわりと微笑み、迷わず僕の手に重なるそれは、夢の中だというのに温かく感じられて。
そして、おぼつかない足どりで――引き返すなんて初めてだったのだから無理もない――僕は搭の屋根へと彼女を導いたのだった。
「ここから飛ぶのね」
「……まあ、そうなるね」
初めて見渡す搭の外の展望に瞳を輝かせてはしゃぐ彼女。
初めての先の見えない展開に憂鬱を隠せない僕。
そんなふたりの間に横たわる随分な温度差。
ここまで来ても僕は、未だ置かれた立場を把握どころか、理解さえしていないのだ。
どう考えたって逃避行の相棒には役不足すぎるだろう。
大体、何処に逃げるっていうのだろうか。
僕が夢から覚めた時、彼女はどうするのか。
ただ途方に暮れるしかない。
そんな僕らに吹く頂の風は変わらず強くて、彼女の長いみつあみを掠ったと思う間もなく、避雷針にそれを巻き付かせた。
「今ほどくから」
待ってろ……と言いかけた僕を制して、ふわりと笑う。
そして僕の手のハサミを取り上げた次の時には。
そうまさに『ばっさり』と。
彼女は耳の下で、これっぽっちのためらいもなく長いみつあみを切り落としたのだった。
避雷針に絡んで置いてきぼりをくらい、所在なげに風に踊る彼女の『長いみつあみ』だったもの。
それを見つめたまま、言葉を失う僕に他力本願の瞳が再びふんわりと微笑む。