ラプンツェルブルー 第7話-1
『手伝う』とはずみのように出た言葉は、その場の勢いとかではなかったのだが、正直なところ僕は不安とも焦燥ともとれる何かを感じ始めていた。
なぜなら、
「まだ……掘るのかよ」
思う以上に作業が続いているから。
今、僕の手にあるのはロープ。これを手繰り寄せ、地上に顔を出したバケツの土を傍らにひっくり返し、空になったバケツを地下に返すのが、僕の今のノルマだ。
一方、彼女は裏側の国まで掘り進むのではないか……と危ぶむくらい、ひたすらシャベルで土をかきバケツに運ぶ作業を繰り返している。
まるで祈りを捧げる人にも似た、そのまっすぐなひたむきさが、僕をじりじりとさせる理由だったりする。
手伝うのはこれで二回目だが、既に彼女をすっかり飲み込んでしまうまで育ったここに、一体何を埋めるのだろうか。
ここに初めて招かれたあの日の問いかけに、『まだ決まっていない』と彼女は答えた。
あの日痛々しいくらいに無邪気に振る舞っていた彼女。
その後ここに立って透き通るような微笑みを浮かべた彼女。
そして今、そんな彼女を『すっかり飲み込むほど』の深淵。
これにより不意に浮かぶ一つの『答え』いや『仮説』というべきか。
額の汗がひどく冷たく感じられて身震いひとつ。
「まさか……な」
わざと独りごちて、ぐいと汗を拭いながらケヤキの隙間の空を仰げば、アイスブルーを押し退けるように雪雲が迫っていた。
そろそろ潮時だな。
今日のところは冬の気候の変化のせいにしてしまおう。
「早川。雪になるぞ。今日はこれで引き揚げないか」
ざく――と土を起こすシャベルの音が止み
「そうね」と深淵の底から返ってきたいらえにホッとし、声の主に手を差し出した。
もっと早くそう言えば良かったとも思う気持ちはこの際しまっておく。
地上に戻り、満足そうに身体に付いた土をはらう彼女に、問うてみるのはやはりあの疑問。
「まだ深さが要るのか?」
「これで終わりにしようと思うの。手伝ってくれてありがとう。ひとりじゃとても無理だったから、すごく助かった」
ふたりで見下ろす地下は対面する空の様子より深い闇色。ともすれば吸い込まれそうになりそうで。
「危ないって」
思う端から傍らの人が、誘われるようにそれに近付くのを、とっさに伸びた僕の腕が引き寄せる。
「あ……」
都合、抱いた身体を離すのと、
「冷た」
雪が触れるのは、ほぼ同時だった。