秘密-7
「お邪魔します」
家の中に入るとお線香の匂いがした。
「こっちよ」
そう言って通された部屋に陸先輩は、寝ていた。
そう、ドラマなんかで見るあんなかんじ。
白い布団の中で仰向けに寝て、顔には白い布がかけられていた。
白い布をどけた、まぁ先輩の手は、震えていた。
「夜買い物に出かけて、飲酒運転の車がぶつかってきたらしいの」
そう説明してくれたお母さんの声が遠く小さく聞こえる。
「おい」
後ろの、遠くの方から男性の声がした。
陸先輩の声に似ていて、びっくりして振り向いた。
「陸の父親よ」
陸先輩のお母さんがそう教えてくれた。
「ちょっとごめんなさいね。何?」
そう言って陸先輩のお母さんはこの場を離れた。
遠くの方から、引出物はどれにする?とか、料理は?とか話している声がする。
先輩の頭のとこにお茶碗があった。
ご飯が山に盛られ、お箸が垂直に立てられていた。
お線香もあり、もう少しで燃え尽きそうだった。
「陸…」
まぁ先輩がそっと呼ぶ声が聞こえた。
陸先輩は返事をしない。
まぁ先輩は陸先輩からそっと離れ、お線香を立てた。
チーン…
りんの音が儚く響いた。
まぁ先輩は逃げるようにその場を離れ、どこかへ行った。
私はそっと陸先輩に近付いた。
こめかみや頬に擦り傷があった。
肌がとても白かった。
それ以外、いつもと何も変わらなかった。
わしゃわしゃしたら気持ち良さそうなふわふわの髪。
長いまつ毛。
すっと通った鼻筋。
形の良い唇。
今にも起きて『あ〜良く寝た』と言って、笑いそうに思えた。
(ただ、寝てるだけ)
「陸先輩…」
私はそっと呼びかけた。
「陸先輩」
さっきより耳に近付き、しっかり呼んでみた。
少しも動かない。
私は頬に触れた。
あまりの冷たさに背筋が凍った。