秘密-5
「大丈夫?どっか具合悪い?お医者行こうか?」
えみが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「えみっ…!」
私は、えみにしがみついた。
えみは優しく背中を撫でてくれた。
私は涙が止まらなかった。
胸が苦しくて痛くて、引き裂かれそうだった。
(何でこんなに涙が出るんだろう?
何でこんなに苦しいんだろう?
先輩に彼女が出来た。
ただそれだけなのに…)
彼女さんの、嬉しそうに笑っている横顔を思い出した。
(陸先輩の隣で笑っているのは、私じゃない…)
そう思った時、より一層胸が苦しくなった。
(先輩の隣で一緒に笑えない。
隣で並んで歩けない。
先輩が選んだのは、私じゃない…
私…)
─私、陸先輩が好き─
なんでこんなこと、今更気付くんだろう…
私は篤也と結婚した。
お腹には篤也との子どもがいる。
篤也と一緒になりたくて親を説得した。
生涯愛すると神様に誓った。
なのに…!
『彼氏がいたって、別の人を好きになることはあるでしょう?』
以前リエルちゃんに言われたことを思いだした。
私、どうして陸先輩を好きになっちゃったんだろう…
私をバカだと笑って下さい。
今更何を言ってるんだと。
でも、気付いてしまったんです。
自分の心の奥に、陸先輩がいることに──
先輩、何で私を写真のモデルにしたんですか?
何で時々電話くれたんですか?
何で私の異変に気付いたんですか?
何で私にだけあだ名を付けたんですか?
…自惚れてもいいですか?
『先輩も私が好きだった』
『私に彼氏が出来たと知ったから、他の人と付き合うことにした』
そう、思ってもいいですか?
先輩。
先輩に迷惑はかけません。
だから…!
先輩のこと、好きでいてもいいですか?
ただひっそりと想っていていいですか?
少しの間だけ、ほんの少しの間だけ…
そうしたら、忘れます。
篤也と産まれてくる子どもと三人で幸せな家庭を築きます。
だから今だけ、好きでいていいですか…?