秘密-3
「もしもし?」
『おう、元気か?』
「はい、先輩は?」
『相変わらずだよ。どうだ、彼氏出来たか?』
「はい」
私は素直に答えた。
これから先どうなるかわからない。
だけど、篤也のこと、きちんと親に紹介しなくちゃ。
もう隠す必要ない。
『…そうか、お幸せに』
そう言って電話は切れた。
私は呼吸を整え篤也に電話した。
『もしもし』
「もしもし篤也、あのね…」
篤也は『産んでほしい』と言ってくれた。
篤也はまだ学生で、卒業するのは再来年の春。
将来に不安はあるけど、お互い子どもの誕生を望んでいて、お互いのことを愛している。
きっとなんとかなる!
私たちは結婚出産の許しが出るまで、必死に親に頭を下げ続けた。
親に泣かれ、怒鳴られ、家族がバラバラになりかけ、心が折れそうになったけど、篤也と共に踏ん張った。
皆で笑顔で赤ちゃんを迎えたくて──
そして、結婚出産の許しが出た。
妊娠発覚から一ヶ月後のことだった。
周りからみたらたった一ヶ月だと思う。
でも、私にとったら永遠の時間だった。
私の父親が『お腹が大きく辛くならないうちに』と急かすので、一ヶ月後親族だけで式を挙げた。
一時はどうなるかと不安だったから、皆さんから
『おめでとう』
と言って貰えて、とても嬉しかった。
『今、世界中で私が一番幸せかも』
なんて思う程。
十月最後の日曜日。
この日、私はえみと一緒に大学の文化祭に遊びに行き、ラウンジで買ったものを食べながらいろんな話をした。
「つわりとかもう大丈夫?」
「うん、初めは時々トイレに駆け込んだりしたけど、二週間くらいで治まったんだ」
「良かったね。じゃあ、仕事も順調?」
「ん〜園長先生は私が働きたいだけ働いていいって言ってくれたんだけど、一緒に組んでる先生とかに気を使わせちゃってね…
うちのクラス、九月いっぱいで違う園に行く子が一人いて、その子がいなくなるとちょうど20人だから、基準上担任1人でいいし、九月いっぱいで退職したんだ」
「そっか。それで今はどこに住んでるの?」
「篤也の実家」
「同居なんだ。どう、大変?」
「ん〜篤也のお父さん離婚してていなくて、お兄さんが一人いるんだけど県外にいて滅多に帰ってこないし、お母さん夜の仕事してて家にいるときはほとんど寝てるからあんまり顔合わせないし、気を使うことももちろんあるけど、お母さん優しいし、結構のびのび暮らしてる」
「なら良かった。でも、辛いこととかあったら言ってね!
いつでも相談のるからね!」
「ありがとう」
♪〜♪〜♪…
えみのケータイが鳴り出した。