百一夜の夢の後〜三夜〜-4
『牡丹と申し上げればお分かりでしょうか。けれど佐助様、あなた様には花名でなく、ただのしのと呼んでいただきたく思います』
そう書き始めれば止まらなかった。
佐助様の贈ってくださる送り主誰そ告げぬまま忍ばされた鈴に、いつしかささやかな楽しみと沢山の安らぎをもらったこと、その思いをしたためたつもりが、筆をおけば恋文のようになってしまった。
懸想文なんてもの、……商売ぬきに初めて書いた。
生娘でない欲まみれた身でこんなにも面映ゆいものが書けるなんて、知らなかった自身をみつけたようで驚く。
「姐さん方、何か使いはありんすか?」
禿が来れば慌ててしまい、結局何だかんだと思っても御客たちに出す文と共に出してしまい心がどうしようもなく波立つ。
返事が、貰えるのなら…戴けるのなら…欲しい。
そう思うのは、初めてかもしれない。
いつだって御客の旦那たちは返事の文より足繁く通ってきて……私の手に残るものは似たり寄ったり豪奢ばかりの見た目を飾るものばかり。
あちきの身を飾るものでないから……佐助様の鈴は愛しく思うのやもね…。
佐助様に貰うものは、――思う想いは、――初めてばかり。
結い上げた髪から簪を手に取ればしゃらり鈴鳴る。
佐助様。
佐助様。
恋慕うとはこの気持ちを言うのですか…?
誰にも訊けずにいた問いかけを、貴方様にならば、お訊きしてもよろしいですか……?