妹(あい)-2
「歩けよ。お前重いから乗せたくない」
「早く帰ろうよぉ♪お兄ちゃん!」
重い、という言葉を聞き流して笑っている。
首までしか無い黒のショート、小さくて黒目がちの瞳。そして肉付きのいい白い体。
セーラー服の下の、窮屈そうに包まれた膨らみが目立つ。
藍は同い年の女の子の中では、はっきり言って太いと思う。
放課後、毎日必ず教室まで迎えに来るから、藍の事を知ってる奴は多い。
太田と木下のアホはこれくらいの体型が一番そそる、などと抜かしてたが。
普通なら藍がからかわれてもおかしくないのに、何故か俺がシスコン呼ばわりされている。
勘弁してくれよ。もう来るなって言ってるのに、全然話を聞かないんだから。
「気持ちいい〜〜〜♪いい風だね!」
やっぱり、重い。俺一人なら軽いのに。後輪が軋んで悲鳴を上げてるぞ。
藍が抱きついてくるから、背中に重さの原因である膨らみが押しつけられている。
なんだってこいつの胸はこんなに膨らんでしまったんだ、まったく。
道行く学生達がいちいちこっちを見てくる。中には、わざわざ電話中に身を乗り出しる奴もいた。
分かってるよ、どうせ藍を見てるんだろ。男ってのはそういう生き物だからな。
「お兄ちゃん」
「なんだよ・・・」
本当はめんどかったんだが、運転中なのもあって振り返らずに返事した。
「今日も、パパもお母さんも遅いって」
一瞬だけ冷たく鋭くなった、氷柱の様な声に思わずブレーキをかけてしまった。
「だから♪また先に寝てって。二人きりだね♪」
振り向いた時には、いつもの高い声に戻っていた。
ああ驚いた、心臓が止まるかと思っただろ。
そうか・・・親父もお袋も遅いのか。もう本当に逃げられないな、こりゃ。
捕まった時点で諦めてたけど、もしかしたらと淡い期待を抱いていた。
何分も走らずに我が家に戻ってしまった。
見上げる外観がまるで逃げ場の無い牢獄の様に見える。
空は、俺には濁った鉛色に見えたけど、青の中に橙の混じった美しい夕焼けの色をしていた。
「早く入ろ、お兄ちゃん」
「分かったから抱きつくな。お前今年いくつだよ」
ドアを閉めたら、藍は靴を脱ぐ前に鍵をかけた。
「・・・二人きり・・・」
そして、向かい合って上目遣いでにやりと笑う。
藍は他の女子曰く童顔なので笑うと可愛いらしい。
・・・どこをどう見れば、これが可愛く見えるんだ?
戸惑う俺をよそに
藍はセーラー服のスカーフをするりと外し、俺の片手に巻き付けてきた。