【イムラヴァ:一部】九章:籠の中で、鳥が-3
「ああ、俺が記憶をなくす前から持ってるのはそれだけなんだ。何の手がかりにもなりゃしないけどな。でも、そいつは返してくれたらありがてえな。他のもんは全部くれてやってもいいよ。だから――」
――お前をここに連れてきたのは、渡り烏の息子(マクレイヴン)という男だ。
そう、父はアランに言った。偶然の一致だろうか?いや、違う。この男は、アランを連れ戻しに来たのだ。死んだはずだと父は言ったが、もしかしたら生きながらえたのでは?その際に、もしかして記憶も失った?だとしたら、自分では何をしているのか、本当に気づいていないかも知れない。でもそんなことは問題ではない。何かがこの男をこの城に導いた。アランの元へ。
彼女をここから連れ出すために。
「フランシス!」
名前を呼ばれた従者は、直ちに地下牢の戸を開け、中に入ってきた。ウィリアムは、クリシュナから顔を背けて、出口に向かって歩き出した。「この男を隠し牢に移せ。食事は一日一回、このことを誰にも口外しない者を選んで運ばせろ。こいつには2度と日の目を見せるな」それは、アランも知らない場所だった。父から子へ、コルデンの領主にだけ教えられる秘密の牢屋だ。
そこに入って、出た者はいない。
「おい!!」クリシュナが吠えた。立ち上がって鉄格子につかみかかった。「待て!この野郎!」
「父上には、侵入者はその場で切り捨てたと言え」ウィリアムはささやきに近い早口でそのことを告げると、地下牢を出てそのまま歩き続けた。クリシュナの声は、重い扉が閉まる前に聞こえなくなった。看守達に意識を失わせられたのだろう。ウィリアムは振り返らなかった。自分のしたことを振り払いたかった。振り返らずに、立ち止まらずに歩き続けた。そのまま、自分の部屋に戻って、戸を閉め、その場にくずおれて震えに身を任せてしまうまで。
「ああ」彼は、目をきつく閉じ、ばらばらに崩壊しそうな我が身を抱いた。「お許しください、神よ」そして、奇妙なことを考えた。
光を拒むようにきつく閉じたまぶたの裏、その暗闇の向こう側で、小さな小さな黒い鳥が、楽しげに羽ばたいたような、そんな気がしたのだ。