あべ☆ちほ-35
偽りの眼差しを剥いでみれば僕の手が掴んでいたものはただの綿ぼこりだった。他も見渡してみる。ベッドの下。壁の隅。どこにもある程度ほこりがたまっている。
「そりゃないぜ、時子さん」
僕は言ってみた。声がかすれて出て思った以上にショックを受けてることを知った。
当たり前の話。思念子という物質は別に証明されたわけでもないし、仮にそういうものがあったとしてそれを視覚化できるような技術力が一学生たる時子さんにあるはずがない。
そりゃそうだ。
僕はもう一度ゴーグルを装着する。ぼんやりと青白く輝く千穂の病室。
僕は笑ってしまった。ほこりが光って見える発明品だって?どうしてそんなものつくったんだ。
笑いながら、ふと僕は確信した。千穂は、なんにも残してない。なんにもだ。全部をあっちに持ってってしまったんだろう。それでこその千穂だ。
それでも僕は千穂の残してくれたものを探すだろう。それでこその僕だ。
そしてそのイタチごっこの中で僕は生きて、自己満足していくだろう。僕らは多分そんな仕組みになってる。
ぼおっと光る世界で僕は思った。
*
千穂のことを追い求めるために書いたこの物語もようやく幕を下ろす。
本当のことを書こうとして嘘になってしまったり、嘘を書いてやろうとして本当に近づいてしまったり、そういうことはたくさんあるだろうけれど、これが概ね僕と千穂の全てだ。
最後にこの物語のタイトルをずっと考えていたけれど、やはりこの物語のタイトルは『あべ☆ちほ』にしようと思う。
なぜなら、これは阿部千穂という女子高生のユルい日常を綴った別段めずらしくもない物語だからだ。
*
もうひとつだけ、蛇足がある。
二月の頭に僕宛に一通の封筒が届けられた。宛名はなし。
中にはたった一枚、小さなカードが入っていた。
そのカードはなんてことのないICカードでゲームセンターにあるローマの神殿を模したゲーム機に投入すると『ツンデレ』というプレイヤーの記録が入ってる。
という、ただそれだけなんだけれど、それでも、それは僕の宝物だ。