あべ☆ちほ-34
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この話の主役たる千穂がそうして死んでしまったわけだから、あとのことは全て蛇足なのだけれど、それでも少しばかりの話はある。
新学期が開けて僕はなにもできずにいた。
千穂のことしか頭にはないのに、千穂はもうどこにもいなくて、そして残されたものはなにもないのだという。
それは存在しなかったのとどう違うのか。僕にはわからなかった。
叫ぶほどの感情もなければ、泣くほどの元気もなかった。ただ澱んだ滓みたいなものだけが残っていた。
それも授業が開始されれば埋没し、部活が開始されれば希薄になった。
文芸部で漫画を読み放送部で対戦した。書道部に菓子をもらい軽音楽部で音楽を聞いた。
そして科学部。
科学部の部室に入ったとき、たまたま、本当にたまたまそれが目に入った。
それで僕は時子さんにお願いしてそれを貸してもらった。時子さんは渋ったけれど最終的には貸してくれた。
翌日。僕は朝から学校をサボって総合病院へ行った。総合病院は、もちろんの話だけど千穂が死んでも忙しそうで見舞い客のふりをした僕を疑いもせず通した。
なんども歩いた神経質な廊下を通って僕はその扉を目指す。
鍵がかかってるか心配したけれど、扉はすんなりと僕を招き入れた。
始めてここへ来たときのことを少し思い出した。完璧な少女像の千穂と直後のおバカな千穂のギャップ。もうとても昔のことのように思える。
扉の中には鉄パイプのベッドが一個、置いてあるだけだった。
当たり前のことが、でも痛かった。そんなはずないとどこかで思ってたのだろうか。まだ千穂がそこにいるような気がしてたのだろうか。
僕は胸を押さえてうずくまった。
それから時子さんに借りた発明品を頭に装着した。この部屋に鏡がないのが残念だ。こんなに笑える姿は他にないのに。あるいは千穂が生きていればこの姿が見せられたのに。僕は思った。
ブツン。
以前と同じように視界が消える。僕は強く目を閉じた。
ブウゥゥーーーーーン。
と駆動音。それに伴って視界がぼんやりと見えてくる。
ベッドの下。壁の隅。淡いけれど、でも確かに光ってる。青白いぼんやりとした光。千穂と僕の喜怒哀楽の欠片。
長い間それを眺めていた。それで僕は気づいた。気づいてしまった。
ためしにベッドの下にある光の欠片を一つ掴んでみた。ふわふわとしたソレは僕の手の中で光ってる。
僕はゴーグルを外した。