あべ☆ちほ-29
「アンタは引き取ったんじゃなくて親戚どもに押し付けられたんだよ」
「そんな!心がまだ不安定な高校生に、そんなショッキングなことをハッキリとよく言えますね。僕が寝巻きの紐で首をくくったら、その遺書にはミヨさんの名前が入ってるかもしれないですよ?」
ミヨさんは、あーん?と面倒くさそうに返答しながらコタツの上のみかんをひとつ掴み僕に投げる。
「いらないですよ」
「違うよ、あたしのために皮むけつってんの」
「最低の人種だ」
でも皮をむく。誰かこの可愛そうな少年に愛の手を。
「いや、でもホントに押し付けられたしなぁ」
世界は非情だ!愛の手は来ない!
「アンタ引き取ると一応生活費ぐらいは毎月くれるって言ってたし」
「どんだけ最低なんスか!」
「ま、アンタの周りごろごろ人死んでたし、数葉オバさんとかめっちゃ恨んでたし、誰かしら実家じゃないとこで引き取らなきゃならない空気はあったよね」
「まあ、それは子供ながらにびんびん感じてましたけど。でも、一応死神だったわけじゃないですかい。僕。それを押し付けられただけってことは……」
いや、と考え直す。超テキトーなミヨさんなら或いは……。
けれど、その思考を軽く飛び越えてミヨさんは答えた。
「ああ。だってアンタ全然死神じゃないのあたし知ってたもん」
え?
「アンタが生まれた日に死んだおばあちゃんは階段の上に出しっぱなしにしてあったあたしのTシャツですべってこけたのよ?だからアレがだれかの仕業だってんなら、あたしの仕業」
「マジで?」
「マジマジ。いまだにあたしおばあちゃんの回忌、出られないもの。合わす顔なくて」
みかんを一個ずつ口にほうり込みながら淡々とミヨさんは語る。のどかな思い出話をするみたいに。
「正敏オジさんは酒にめっちゃ弱くてふらふら歩くの得意だったし、数葉オバさんとこの次男坊はパニック障害持ちだったし、あんたのお父さんは鶏と豚をいっしょに飼うようなアホだったし」
「え?それ、なにが駄目なの?」
「鳥インフルエンザは人には感染らないけど豚には感染るんだよ。で、豚から人には感染可能だからね。まったく新種のインフルエンザで死んじゃったんだよ」
「ホントだ!父、アホだ!」
安らかに眠れ、アホな父よ。
「で、姉さんはただの疲労だよ。元から体の丈夫な人じゃなかったしね、よく貧血で倒れてたし、ましてや雨の日の深夜だろ?見通しも悪いだろうし。そんな感じでQED.」
言って、ミヨさんは最後のみかんをぱくりと放った。