あべ☆ちほ-15
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「だ、そうですよ」
405号室を出たすぐの廊下に、その女性はいた。
「あの子は私の娘です、なんて結局、思いの押し付けでしかなくて、本当には他人じゃないですか。こういうことって時間をかけるべきものだって、それはわかってるのに私たちにはその時間すらない。って思っていたところだったのに、あの子は――」
仕事を早く上がってきたことを証明するようなスーツ姿。ほつれた髪と浮かんだ汗。荒々しい言葉。濡れた目もと。
「そんなとこで泣いてないで入ってあげたらどうです?」
「やめてください。大人が泣いてるところは見ない振りしてあげるものですよ」
そう言ってグジと鼻をすすった大人の人は、ただ普通にいい人だった。
僕はよかったと思えた。
「早く帰らないとクリスマスの日に様子見に来ますよ」
「デートの邪魔なんて野暮なまねされちゃあ大変だ。さっさと消えますよ」
僕は退散することにした。
だからその女性がどんな顔でその日、405号室のドアをくぐったのか、僕は知らない。
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もろびとこぞりて むかえまつれ
「ところで千穂はどのくらい体力ない状況なの?」
ひさしく まちにし
「えっと。走ったりは無理かな。休み休み歩くならできる……はず」
しゅはきませり しゅはきませり しゅは
「もちろん外出許可が取れたりは――」
しゅはきませり
「あはははは……は」