あべ☆ちほ-14
「ただね。そのままずっと悪くないはずのママを許せないことが怖い。許せないことを永遠にしちゃうのが怖い。ホントは全部わかってるの。私きっと許せないわけじゃないの。でも意地張って、それが最期になっちゃうのは、――とても怖い」
「なら簡単だよ。許せばいいだけだ」
「できるかなぁ?」
「できるよ。僕ぐらいのプロのあまのじゃくからすればまだまだ千穂は未熟だからね。そんなんじゃ本当はいい人な父親の再婚相手なんてすぐに許しちゃうよ。あーあ、見所のあるヤツだと思ってたのに」
千穂は泣かなかった。笑った。
「こんなこと言ってもプロのあまのじゃくはうれしくないだろうけど、言うね。ありがと」
嗚呼――千穂に死んでほしくない。
ひどい話だと思った。なにかを恨んでしかるべきだと思った。なにかは恨まれてしかるべきだと思った。
だから、プロのあまのじゃくは笑った。
「もちろんうれしくない。そんな言葉で懐柔される僕じゃない。僕も千穂からなんかされたいし、千穂になんかしたい。灰をエアーズロックへは運べないだろうけどさ」
そっか。短く千穂はつぶやいた。そっか、そっか。
「それなら。灰になる前の私をどこかへ連れてってよ」
「どこかって?リクエストは?」
「街……とか」
恥ずかしそうに小さな声で千穂は言った。
「街だね」と僕は聞き返す。
「私だって女の子だから、クリスマスにデートぐらいしたいよ」
千穂はそういってはにかんだ。夕暮れのせいじゃない。千穂の陶器のような白い顔がほんのりと赤くなった。
それで僕のクリスマスの予定は埋まった。