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あべ☆ちほ
【少年/少女 恋愛小説】

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あべ☆ちほ-13

世界を動かすたった3%の富裕層になることもできれば、小学生の時点で通り魔に刺されて命終わることもある。転生ダイスである種の目が出れば畜生道にだって堕ちる。

プレイヤーたちは生まれ、死に、幾度も幾度も輪廻を繰り返しながら解脱を図り、永遠に続く輪廻の軛から脱け出すことが最終目標となる。

「輪廻から脱け出しちゃうなんてなんかもったいない気がするよね。生まれ変われるんだったら何度だって色んなものになっていろいろなことをしたいと思わない?」

21週目の千穂の操るキャラが嵐の中マグロ漁船から放り出され、その壮絶な生涯を終えたとき彼女は寂しそうな目でそう言った。

台詞は、しかし強力だった。千穂の境遇は悲劇的というのに充分だったから。

僕はまっこうから受け止めず誤魔化すことにした。

「まあ仏教寄りのゲームではあるかな」

「仏教?」

「そ。仏教では輪廻転生は魂が汚れる忌み嫌われることになってるから」

「ふぅん」と。よくわからないけどとりあえずうなずいてみた、という表情で千穂はコクリと首を振った。

目は窓の遠く紫色に薄れた夕焼け雲を見ている。あるいはもっと別のものを見ているのかもしれない。

それはどんなものだろう?生まれ変わった自分とか?

「でも、ああは言ったけど、いざなんにでも生まれ変われるってなったら結局同じ自分に生まれ変わっちゃうんだろうね」

千穂は言った。

「同じ自分に?」

それは意外な言葉だった。もっと違った形に、鳥に、花に、雲に、なにかしら今とは違った自分になりたいと考えていると僕は思っていた。

「どうして?」

僕は尋ねた。その疑問符は彼女のスイッチになっていた。

「うん。だってまた自分に生まれなきゃ、それは他人にしか思えなくない?私は私。今と同じ阿部千穂のままでぐるぐる、何回も同じように世界を見て同じように世界に触れて、それで死にたい」

死にたい、と千穂の口からするりと言葉が出た。僕はびっくりしていた。千穂の言葉にじゃなく自分にだ。

そして僕は、致命的な時間をかけてとてもあたりまえのことに気がついた。



千穂に死んでほしくない。



「ママがね。百万回死んだあのママがね。『大丈夫よ。きっと治る』って言ってくれるの。強く強く言ってくれるの。あんなに憎い人なはずなのに、パパを誑かした悪いやつなはずなのに。なのにね、私うれしいの」

「いいことだと思うよ」

千穂はうなずいた。何度も何度も。

「私よかったって思えた。あまのじゃくな私だけどよかったって。死んじゃうのはね、実は怖くないの」

「死んじゃうなんて」と反射的に言いかけて自分で自分にひいた。今更どの口がそんなこと言うんだろう。僕はそれを見に来たはずじゃなかったか。誤魔化すのか。陳腐な励ましの言葉がかけれる立場か。

僕はなにも言わなかった。


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