あべ☆ちほ-11
「今までに恋を発症したことは?」
恋をすることを『発症』と彼女は言った。
「発症?」
「そう。発症。ない?」
「ない、……と思うけど」
僕の答えを聞いているのか、いないのか。すーーっと筒の向こう側で薄い板が入っていく音だけがした。
「これは?見える?」
見える。と僕は言った。
見えたのは普通の万華鏡だ。キラキラした輝きが一定の間隔で反射し反転し変化し連鎖した。
「色は?」
「ピンクと赤の中間ぐらいの色かな。ちょっとピンク寄りかも」
「そう」
言って測定器を外される。ぎゅっと押さえつけていたせいで外すと目がチカチカした。
なにか言ってくれるものかと思って口を開かずに待っていたが時子さんはなにも言ってくれない。痺れを切らして結果を尋ねようとしたとき彼女は口を開いた。
ふーーー。
その言葉は声じゃなく大きなため息から始まった。
「居候は重症」
「重症って」
「ピンク寄りの赤はロゼピンク。薔薇色。ラビアンローズだ」
「え、ダジャレ?そういう色した万華鏡だったんじゃないの?」
再びため息。
「なに?」
「居候、恋愛測定器は基本的になにも見えない」
「でも普通の万華鏡だったよ」
「それはこれが普通の万華鏡だから」
時子さんの言わんとしていることがイマイチ伝わってこない。
「じゃあ、問題ないじゃん」
「でも、入れてた板はこれ」
そういって時子さんは板を出した。真っ黒の。向こうを見通せない板を。
「居候は相当に重症」
時子さんは言ってにやりと笑った。