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あべ☆ちほ
【少年/少女 恋愛小説】

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あべ☆ちほ-10

「実験日時、ゼロロクニイヨンのヒトロクマルゴー。実験器具、思念子観測機。実験対象、時子と居候」

「居候ってもしかして僕のこと?」

もちろん、時子さんは答えない。実験の時間は彼女のユートピアなのだ。

「これより実験を開始する」

その言葉と共におもむろに僕の方へと近づいてくる時子さん。顔と顔との距離が縮まる。

生物の住まない湖のような均一に灰色の瞳に僕が映り、その上で細いまつ毛が震えているのを見たのと同時。

ブツン。

視界が真っ暗になった。

「と、時子さん?」

「立ち上げに10秒かかる。待って」

なにを言ってるのかは分らないが視界がないと動けないのでとりあえず待つ。

ブウゥゥーーーーーン。

耳元で微かな駆動音。それに伴って視界がぼんやりと見えてきた。薄暗いことを除けばなにも変わらないさっきまでの科学室だ。

「別になにもかわらな―――くないね」

隅の方。普段眼も向けないようなガラクタの向こう。光っていた。ぼんやりと薄い光ではあるけれど、床が光っていた。

「これ、なにが光ってるの?」

「思念子」

一瞬も迷わずに時子さんが答える。

「さっきのって例え話だったんだよね?」

「例え話。だから名称こそ思念子ではないけれど、今光ってるのは人が喜怒哀楽を剥きだしにすると噴出され付着するナニカ」

「……うそ?」

「時子はいつだって本気だ」

そう言った時子さんからはピカピカと光が散った。

綺麗だった。



その発明品が本当にそういうものが見えてたのか、それともなにか別の仕組みで光ってるものを僕に映していたのかは分らない。

けれど時子さんはそういうよくわからない物を次々に発明していた。

そして千穂の話をしたときに彼女がいつものガラクタの山から取り出したのは恋愛測定器だった。

恋愛測定器は万華鏡のような筒の真ん中に15センチ程度の薄い板が刺さっている物体である。

被験者はまずその万華鏡の筒を覗き込む。観測者は刺さってる板を右から少しずつ左へとずらしていきなにか見えるかどうか。見えるならばそれは何色かを尋ねる。その結果しだいで被験者が恋をしているかどうかが分るというもの……らしい。

その発想力と、友達もいないのに恋愛測定器を作ろうと思い立つ気概を僕は素直に尊敬する。

というわけで僕は恋愛測定器の記念すべき第一号被験者となった。


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