双子の姉妹。 10-2
***
なぜ櫛森家に行くことをやめたんだろう。
最初は自分でも不思議だった。
何ヶ月もの間、行くことが当たり前だったのに。
ただやっぱり、二人の告白を断ったときは、もう行けないと思っていた。
でも二人やおばさんは、何事もなかったかのように接してくれて、俺はいつものように笑って帰った。
そりゃうれしかったよ。
うれしかったけど…
それじゃ意味がないんだ。
俺が二人から離れないと、二人を傷つけ続ける。
恋する女は強い、なんて言うけど、自分を振った男とまたその後も毎日のように会うなんて辛いだろう。
少なくとも俺には無理だ。
「おはよ、俊哉」
「…おはよ」
「久しぶりだね」
「そうだな」
途中、いつかのように香織と会って、一緒に大学へ向かった。
しばらく話していると、なんだか自然に、話題は双子の姉妹の話へと移った。
「…へえ、それで結局二人とも振っちゃったの」
「…ああ、やっぱりそれしかなかった」
「まあ俊哉は家族のことで辛い思いしてるんだから、そう考えるよね」
「……ああ」
「女はそんなのじゃ納得できないものだけどねー」
「え?」
「…でもそれってさ、なんかあたしが馬鹿みたいじゃん」
「…なんでだよ」
「ピエロになりっぱなしって感じ」
「……」
香織はふてくされたような顔をする。
まあ、実際にふてくされてるんだろう。
香織は香織で、また申し訳ないような気持ちになる。
「じゃあさ、今度こそあたしと付き合わない?」
「……」
「…冗談よ」
「…冗談に聞こえねーんだよ」
内心、ドキッとした自分が憎い。
「む…でもさ、双子ちゃんを振って会わなくなったのはわかるけど、二人共、うちの大学受かったんなら今日くらい会うんじゃない?」
確かに季節はすでに春。
新入生はもう入学式を終えていた。
「まあそうだけど…っ!?」
そう言った瞬間、後ろから何かがぶつかったような衝撃を受けて前のめりになる。
「いって…」
何事だと思い、後ろを振り返った。
「あ、香織さん、ですよね。こんにちは!」
「…これからよろしくお願いします」
なんと、双子の姉妹、麻琴と琴音が俺に飛びついたのだった。
そのまま香織に挨拶なんぞしやがるし。