投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

春の匂い
【ショートショート その他小説】

春の匂いの最初へ 春の匂い 1 春の匂い 3 春の匂いの最後へ

春の匂い-2

はぁぁ?

俺はあっけにとられつつも、どうしていいか分からず、つい従ってしまった。
オネエサンは自分の膝の袋から無造作に苺を掴むと、俺の持っている袋にそっと苺を入れた。
もうふたつかみ。
1パック分ぐらいあるだろうか。

「うまいよ。つぶさないように持って帰りな」
そう言って笑うオネエサンはやっぱり美人で。
ネエサン、そのギャップはないす。
「…あ、あ、ありがとうございます」
頭はまわらず、オロオロのままだったけど、ひとまずお礼だけは言えた。
俺は開いたドアから頭を下げつつ電車を降りた。



駅から出ると雨は止んでいた。
実は『苺の騒動』で1駅乗り過ごしていた。
俺は苺の匂いを漂わせながら歩いた。
もしかしたら、もうつぶしちゃってるのかもしれない。
袋の中に手をつっこみ、取り出した一粒は大きくて艶やかだ。
そのまま、口に入れると甘酸っぱくてうまかった。
あのオネエサンがにっこり笑っている気がした。
結局、20分ほど雨上がりの道を朧月に見張られながら家まで散歩。



あれは一体なんだったのだろう?
狐につままれたような。
決して不愉快なわけでなく。寧ろ…。



気分もすっかり良くなって、帰った頃には苺はなくなっていた。
オネエサンを証明できるモノは腹に収まり、春の匂いだけがまだ俺にまとわりついている。

fin.


春の匂いの最初へ 春の匂い 1 春の匂い 3 春の匂いの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前