春の匂い-2
はぁぁ?
俺はあっけにとられつつも、どうしていいか分からず、つい従ってしまった。
オネエサンは自分の膝の袋から無造作に苺を掴むと、俺の持っている袋にそっと苺を入れた。
もうふたつかみ。
1パック分ぐらいあるだろうか。
「うまいよ。つぶさないように持って帰りな」
そう言って笑うオネエサンはやっぱり美人で。
ネエサン、そのギャップはないす。
「…あ、あ、ありがとうございます」
頭はまわらず、オロオロのままだったけど、ひとまずお礼だけは言えた。
俺は開いたドアから頭を下げつつ電車を降りた。
駅から出ると雨は止んでいた。
実は『苺の騒動』で1駅乗り過ごしていた。
俺は苺の匂いを漂わせながら歩いた。
もしかしたら、もうつぶしちゃってるのかもしれない。
袋の中に手をつっこみ、取り出した一粒は大きくて艶やかだ。
そのまま、口に入れると甘酸っぱくてうまかった。
あのオネエサンがにっこり笑っている気がした。
結局、20分ほど雨上がりの道を朧月に見張られながら家まで散歩。
あれは一体なんだったのだろう?
狐につままれたような。
決して不愉快なわけでなく。寧ろ…。
気分もすっかり良くなって、帰った頃には苺はなくなっていた。
オネエサンを証明できるモノは腹に収まり、春の匂いだけがまだ俺にまとわりついている。
fin.