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『Scars 上』
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『Scars 上』-1

冷たい夜の風が肌を刺す。
頭上に輝く、鋭利な三日月。
霧のかかった闇夜の中、悴む手に息を当てる。
『――始まったぞ』
ケータイに繋いだヘッドセットから聞こえるレイの声。
握り締めた扇を軽く開いた。
「分かった。こちらに動きがあり次第突入する。それまで耐えてくれ」
『――了解』
息を潜めて見つめる先にある寂れたバー。
店の看板に内蔵された蛍光灯が、息も絶え絶えに点滅を繰り返す。
今頃、校門の前では乱闘が繰り広げられているはずだ。
胸が高揚するのを抑えきれない。
パタン、パタンと。
手に持つ扇を閉じたり開いたりしながら。
俺は、その時を待つ。



同時刻。
桜花学園校門前。
喧騒が響き渡る。
飛び交う怒号、耳に障る罵声。
わずかばかりの灯りもない、夜の校門。
深い闇に包まれたその場所で、幾人もの男達が殴り合っている。
喧嘩。
髪の色を派手な色に染めた男。
耳や鼻にピアスを刺し、欠けた歯をむき出しにして咆える男。
眉をそり落とし、顔の半分にタトゥーの入った男。
どれも、とてもマトモには見えない男達。
狂気すら感じさせる凶暴さでお互いを殴り合う。
道を踏み外した不良たち。
皆、思い思いのアレンジを加えてはいるものの、着ている制服は同じだ。
「一年が、俺たちに勝てるわけねえだろうが!」
頭をスキンヘッドにして無精髭を生やす男が叫ぶ。
全員、同じ高校。
桜花学園内部の一年生と二、三年生の喧嘩だった。
「……キリがねえ」
混戦の中、別格の雰囲気を漂わせた男が呟く。
長い髪を後ろに束ねた、長身の男。
レイと呼ばれる、一年生のリーダー格だった。
「レイさん、ダメだ。奴ら、また応援呼びやがった」
遠くから、大勢の人間の足音が聞こえてくる。
「最初に三年の奴らぶっ飛ばしてから、どれくらい経った?」
「三十分くらいだと思う」
「その間ずっとケンカしっぱなしか」
言いながらも、レイは次々に敵を倒していく。
無造作に振るわれた裏拳。
振り返るようにして、脚を一閃。
そして、思い切り大地を踏みしめて、繰り出す必殺の一撃。
わずか数秒ばかりの間に、三人の上級生がレイの周りに倒れていく。
「数が多いだけなのが救いか」
息つくヒマもなく、次々に群がってくる上級生達。
それらを迎え撃つように、レイはだらりと構える。
「頼むぜ、イオリ」
力任せに振るわれた、上級生の大振りなパンチを避けながら。
この暗闇の中、今も声を潜めて獲物を狙っている親友に全てを託した。


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