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『Scars 上』
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『Scars 上』-22

「……?」
その時、ふと違和感を感じた。
あるはずのものがないような感覚。
違和感。
危機感。
警告!
脳が目まぐるしく状況を飲み込んでいき。
「!!!」
私は、車体を横倒しにして急停車させる。
止まって!
存在を信じてもいない神への祈り。
地面との摩擦を最大限に利用して、白煙を上げるタイヤ。
横滑りしていくV-MAX。
ほぼ地面と垂直になりながら。
車体はどうにか静止した。
「はあはあ……」
パラリと、遥か下に落ちていく小石。
破裂しそうなほどの勢いで律動する心臓を押さえて。
私は状況を把握する。
ないのだ。
道路が。
この道に入る時にわずかに見えた黄色い看板。
あれは工事中ではなくて、建設中。
まだ着工途中の道路を、私は走っていた……?
背筋を冷たいものが流れる。
なんで。
普通そんな道は閉鎖されているはずだ。
バリケードか何かで封鎖されていて――。
「……誰かが故意にどかした?」
そんな考えを口走った時、背後で数台のバイクが止まる音がした。
振り返りながら、私は堪え切れなかった。
自分の顔が恐怖に引きつるのを。



ユウジのリアシートから、ゆっくりと足を地面に下ろす。
夜は更けて、月には薄く霞が掛かっている。
朧月夜。
途中で途切れた道路。
数ヵ月後に完成予定の環状二号線バイパス。
断崖と化したそこには一人の少女が立っている。
肩で呼吸を繰り返す、美しい少女。
「よお。いつかの借りを返しに来たぜ」
俺はアスカを見下ろすように言う。
険しい顔をするアスカ。
そんなアスカを取り囲むように、数台のバイクがヘッドライトを当てる。
追い詰められた少女。
「……」
アスカは何も言わない。
人数はそれほど多くないが、俺たちは十人。
うち二人はレイとユウジだ。
「決着をつけようぜ?」
バイクにだらりと蹲るシバ。
悔しそうに顔を俯かせるアスカ。
……絶体絶命だな。
絶たれた退路。
迫り来る敵。
味方は戦闘不能。
いわば背水の陣。
ただ、詰んでるだけだけどな。
「……認めるわ」
ぼそり、と。
俯いたままのアスカは言う。
「うん?」
ゆっくりと顔を上げるアスカ。
「……ほう」
その目は、死んでいなかった。
きらきらと、強い意志に満ち溢れた目。
この状況にいて、なお燃え盛るその瞳に。
「ふっ」
思わず笑みがこぼれた。
「認めるわ。あんたは強い。こんなに追い詰められたのは初めてよ」
そう言うアスカに、追い詰められた素振りは全く感じられない。
逆に開き直ったのか?
シバを乗せたバイクはアイドリングしたまま、低く唸り続けている。
「でもね……」
アスカはこちらを向いたまま、バイクのシート脇に手を伸ばした。


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