双子の姉妹。 8-5
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「あれ?おばさん琴音は?」
リビングに入ると、いつもは真っ先にテーブルについて手を合わせている琴音の姿が見当たらない。
というかそれ以前に、食事が三人前しかない。
「琴音なら今日は朝からお友達と一緒に勉強しに行ってるの。それで今日はお友達のお家に泊まるんだって」
どうりで今日は琴音を見なかったわけだ。
「いいの?俊哉、この大事な時期に友達と勉強なんて。そんなの捗るわけないじゃん」
「いいんだよ琴音は」
「う、また琴音だけには甘い」
麻琴はぶすくれながら食卓についた。
「うはー、久しぶりにカレーだ」
俺も食卓につく。
俊哉、晩御飯はカレーにするからね
「!?」
やっぱりあの夢を見たせいだな。
もう時間が経ちすぎた。忘れろよ。
俺の今の家は、ここなんだから。
「俊哉くん」
「…はい?」
「麻琴の勉強は進んでる?」
おばさんが問いかける。
めずらしいな、おばさんが勉強のことを自分から聞いてくるなんて。
「正直、全然時間が足りません。誰かが意地を張ったから」
「う」
「そう…困ったわね」
「おばさん、顔が全然困ってなさそうなんですけど」
おばさんはニヤニヤしていた。
今度は何を企んでいる!
「じゃあしょうがないわね。今日と明日は緊急で合宿です」
「はい?」
「俊哉くんは今晩この家に泊まって、明日の夜まで猛特訓です」
「はぁ!?」
なんか今までに何度も見たパターンだな。
「……極力無理はさせないつもりでしたが、まあ一日くらいはそういうのもありですね」
しかし俺は当然そう答えた。
時間が足りてないのは明白だし、頑張っているとは言え、いまいち危機感に欠ける麻琴だからいい刺激になるだろう。
「……決定なの?」
珍しく麻琴が必死で止めに入らなかった。
これは…一体どういうつもりなのか。
「決まりね、じゃあ俊哉くんには琴音の部屋で寝てもらうからそのつもりで」
「ちょっとちょっとちょっとー!」
こんなときでもツッコミは忘れない。
「…じゃあ、晩御飯食べ終わったら一度帰って着替えとってきます。ついでに風呂も入るからちょっと遅くなりますね」
「だめ。お風呂上がりに外に出て俊哉くんが風邪引いちゃったらどうするの。着替えはとってきて家で入りなさい」
やっぱりおばさんは母親みたいだ。ちょっとこういう会話をするとうれしくなる。
「……わかりました」
「……琴音はいなくて…俊哉は泊まって…」
「麻琴、何ぶつぶつ言ってるんだ?」
「へ?なんにも!?」
「……ふふ」
こうして、緊急合宿が始まった。