双子の姉妹。 8-11
***
翌日、麻琴に起こされることもなく、自ら起きた。
「……全然寝れなかった」
よろけながらトイレに行ったあと、歯を磨く。
日曜だし、まだおばさんも起きてないみたいだ。
新聞でも取りに行こう。
歯ブラシを口にくわえたまま玄関を出て、ポストから新聞を取り出した。
「ひょーかん、ひょーかんっと」
「……せんせ?」
目の前には琴音が立っていた。
「ふぉとね、おふぁえり」
俺は聞き取れないと思い、慌ててくわえていた歯ブラシを手に持ち直した。
「早かったな。まあ俺もわかる。友達の家に意気揚々と泊まりに行っても、朝方にはすることなくなって帰るよな」
だが、俺の軽快なトークは琴音には通じなかった。
琴音は目を見開いて言った。
「……なんで泊まってるの?ねえ、せんせ…」
***
「お母さんが言ったのよ、麻琴の勉強時間が足りてないって言ってたから俊哉くんに合宿すればって」
「なんであたしがいないときにするの!?あたしだけ仲間はずれじゃない!」
琴音はすごく怒っていた。
いつもの子どもっぽい琴音の姿はそこにはなかった。
「お姉ちゃん、せんせと一緒に寝たの?」
「はぁ!?なに言ってんのよ!?」
「またお姉ちゃんだけ特別扱いされてるじゃん!」
「琴音、しょうがないわよ…麻琴にも大学受かってほしいでしょ?」
「……別に」
「琴音…あんたねぇ!」
俺は三人がリビングで言い合っているのをただ黙って見ることしかできなかった。
三人と言っても、おばさんは二人をなだめているだけだが。
俺は耳を塞ぎたかった。
俺のせいだ。
俺のせいで二人は喧嘩を始めてしまった。
とてつもなく、息が苦しい。
「……おばさん、俺、帰ります」
「え?せめて朝ご飯だけでも食べて帰ったら?」
「いえ…洗濯物は明日受け取ります。おじゃましました」
「ちょっと、俊哉くん…」
「俊哉…」
「せんせ…」
俺は黙って、櫛森家を出た。
やっぱり俺は、選べない。
二人のどちらかなんて。