新人-1
社会人になって三年目。
新人を迎える立場には、まだ慣れない。
「あの子、こっち見てるぞ」
彼氏で同期の藤が私にこっそり耳打ちしてきた。
見ると、不安げな面持ちのお人形さんみたいな女の子がこちらを見ていた。
というより、社員と新人が向かい合う形で立っていたので、彼女が姿勢を正して真っ直ぐ立っている目の前に、私たちがいたというほうが自然かもしれない。
「うっわぁ、あの子、すっごい可愛い〜。やっぱいいねぇ、専門あがりのピチピチ二十歳は」
「お前、ピチピチとか言うな」
ベージュのフワッとした長い髪の彼女は、私と目が合うとニッコリ笑って社長に分からないよう少しお辞儀した。
「ね、藤、見た?あの子絶対いい子だよね。ちゃんと挨拶出来るし」
「ゆとり教育世代には珍しいな」
「本当。あんたみたいなゆとり教育の賜物に比べたらしっかりしてるわ」
「もう常識知ってますー。過去は過去なんですー」
「はいはい」
私もその子に向かって微笑み返してあげた。
新人を迎える立場には、まだ慣れない。
ハサミを持って日が浅い半人前な私が先輩だなんて。
慕われないタイプではないけれど、仲良くなれるかなんて緊張する。
それでも、向かい側のリカちゃん人形みたいな女の子とこれから一緒に働くんだと思うと、それだけで少しワクワクした。
入社式から数日。
私たちは急速に仲良くなっていった。
カナ。
見た目に合ったとても可愛い名前だと思った。
そのことを伝えると彼女はムスッと顔をしかめた。
「カナ、この名前、あんまり好きじゃないんですよね…」
「どうしてー?カナちゃんにすごく合ってるのに」
「だってぇ、『カナ』って結構たくさんいるんですよ?ありきたりでつまんないですよぉ」
ぷぅとカナは頬を膨らませる。
私の友達に『カナ』という名前の子はいなかったが、そういえば高校の時の後輩にカナという子がいた気がした。
「高校の時、部活内にもう一人カナって子がいて最悪でしたぁ」
「タメに?」
「いや、学年は違ったんですけどカナと正反対のタイプで!」
私は少し吹き出してしまった。
カナが、本当に嫌そうに眉間に皺を作って話す姿が可笑しかった。