新人-8
「藤っ!」
仕事が終わってすぐ、私は藤に駆け寄った。
「おう、お疲れ」
藤はいつもと変わらない。
春の夜風はまだ冷たくて、薄着の私の腕に鳥肌を作った。
でも、鳥肌は寒さだけのせいじゃない。
「今日どっか寄ってかない?話、聞いて欲しいの」
もう、私一人では抱えきれない。助けて欲しい。
しかし、藤は
「悪い。今日は用事あんだ。また今度な」
と軽くあしらった。
「用事?用事ってなに?」
前はいつだって優先してくれたのに。
私一人じゃもうどうしようもないんだから。
「いいだろ、何だって」
「何?気になるよ、私より大事なこと?」
「話ならここで聞くから、な?」
「…今日のカナのこと」
私は渋々口を開く。
「あれはお前の責任だろ?カナちゃんにやらせたお前が悪い」
藤まで。
「違うの!あれはカナが自分からやるって!チーフにやれって言われたって!」
きっと藤なら…藤なら私のこと信じてくれる。
「しかもあの子笑ってたの!頭下げながら楽しそうに!あんなことしといて笑えるなんてオカシイよっ!」
一気に言い切った私をぽかんとした顔で藤は見つめていた。
「お前の言いたいことは分かった」
良かった、藤…。
「ありがと。あのね、私本当に怖くて――」
腕を組んで歩き出そうとしたが、藤は止まったままだった。
「藤?」
「触んじゃねぇよ!」
――!?
腕が弾かれ、藤が怒鳴った。
「カナちゃんに責任転嫁か。最低だな」
「え?そんな、ちが…!」
藤、何言ってるの?そんな冷たい声聞いたことないよ。
「カナちゃんが言ってた通りだな」
「え?」
カナが?いつ?
「お前に避けられてる、苛められてるって。泣いてたんだぞ!それでもお前のこと昔から尊敬してるっつって」
「そんなこと無いよっ!!」
思い返してみれば、ずっと前から藤はカナと繋がっていたのかもしれない。
色々怪しい節はあった。