新人-7
「違います」
でもそれは違う。誤解だ。
「何!?私のせいだっていうの!?」
チーフが声を荒げた。
それも誤解だ。
「違います…そんなこと…」
「すみません!」
その時、泣いてばかりだったカナが、叫んでばっと頭を下げた。
長い髪がダラリと垂れる。
「カナのせいです!先輩は悪くないです!カナ、ちゃんと出来るって思ってて…でも緊張しちゃって温度調節誤っちゃって…だからカナが悪いんです!」
チーフがはぁっと短いため息を吐いた。
「カナちゃん、そりゃねカナちゃんが一番悪いよ。でもね、そんなカナちゃんに頼むこと自体がそもそも間違ってたの。責任感が足りない証拠」
チーフの優しく諭すような声に吐き気がした。
この子、自分から名乗り出たこと言わない気なの?
これじゃあ、まるで本当に私が…。
「すみませんでしたっ!!」
一際大きなカナの声。
反吐が出そう。
「しょうがないわね」
それでも丸く収まりそうな雰囲気で、私はぐっと言葉を飲み込んだ。
きっと私が何か言ったら、またチーフが熱くなる。
「申し訳ありませんでした…。以後気をつけます…」
これで私が認めたことになってしまった。
私も深くお辞儀する。
「本当、くれぐれも気をつけてね」
ピシャリとチーフが言い放つ。
「……はい」
「はいっ!」
カナ…。
よくそんな返事が出来たものだ。
私は頭を下げたままカナをちらりと見る。
――っ!?
心臓が跳ねた。肺が縮んだのかと思うくらい、浅い呼吸しか出来ない。
全身にざぁっと鳥肌が立った。
カナ―。
涙を流していたカナ―。
深く頭を下げたカナの、垂れた髪の隙間から見える口元がニタリと笑っていた。
涙で濡れた頬が、とても嬉しそうに歪んでいた。
―この女。…狂ってる。