新人-3
「へぇ、そうなんですかぁ」
藤と私の話をするのは恥ずかしい。
「あ、ねぇ、あの店員さん可愛いよね!」
私は話題を逸らすことにした。
瞬間、カナの雰囲気が変わった気がした。
「全然可愛くないですよ。ブスですよ」
カナは早口でまくしたてる。
「あれ、整形ですよ。私には分かるんです。目も鼻もメス入ってますよ。目頭切ってるし、あの二重も不自然だし、左右同じだなんて有り得ないです。鼻筋も真っ直ぐでテカってて間違いなくシリコン入ってます。あの女ブスですよ。それに」
その店員さんをじっと睨みつけながらカナは口を動かし続ける。
声は低く小さく早口で、注意深く聞かないと分からない。
いつものあの声は、喋り方はどこへ行ってしまったんだろう。
何かに取り憑かれたようなカナに、私は言い知れない気味の悪さを覚えた。
「…カナ、ちゃん?」
「…だから先輩の方が何倍も何倍も何倍も可愛いんですよ」
私…?
「…カナちゃん」
もう一度彼女の名前を呼ぶ。
するとニッコリ笑って
「先輩っ!そろそろ行きましょう!次はカナ、お洋服見たいんですぅ」
いつものカナに戻った。
さっきのは何だったんだろう。
まだ心臓が落ち着かない。
バッグを肩に掛けながら立ち上がるカナは、もういつも通りのカナで、さっきのような雰囲気の欠片も感じさせない。
もしかしたら私の思い違いかもしれない。
私も動揺していた。
そういうことなんだ。
せっかく仲良くなれた新人と私の勘違いで仲違いはしたくない。
「先輩?」
「うん、行く」
私は立ち上がってカナの横へ並んだ。
その時だ。
―!?
「カナ、先輩のこと大好きですー!」
カナが腕を絡めてきた。
私にぴったりとくっついて歩き、微笑んでいる。
まるで恋人同士みたいじゃないか。
しかし、ふとつい先日のことを思い出した。
嬉しくて抱きついてくるカナ。
この子はそういう子なんだ。
嬉しさをスキンシップで表すのだ。
そう思えば、これぐらい普通のことなのかもしれない。
「…ありがと」
その日一日中、カナが私から離れることは無かった。