新人-13
「先輩はこんな私にも大好きって言ってくれた。私も先輩が大好き。――その時思ったんです」
香奈は過去を懐かしむような遠い目をした。
「先輩を私だけのものにしちゃおうって」
ゾワッと悪寒が走った。
香奈は狂ってる。オカシイ。私に歪んだ感情を抱いているんだ。
吐き気がする。
「…だから、あんなこと」
「はい。もう先輩は一人ぼっち。私だけのものです」
香奈と私の距離が縮む。
私は香奈を睨み付けた。
「ふざけないでよぉっ!!あんたのためにどうして私が犠牲になんなきゃいけないの!?私はあんたのものになんかならない!気持ち悪い…」
香奈が立ち止まって無表情になる。
怖い。気味が悪い。
「へぇ。どうするんですか?」
でも、負けない。
「あんたの本性バラしてやる!藤も取り返す!」
「ふーん。まぁ、やれるもんならどうぞ。でも、忘れないでください」
その時、カナの右手に光るものが見えた。
「私、藤さんのこと何とも思ってないんです。何するか分かりませんよ?」
それを見つけた刹那、どくんと心臓が鳴って、呼吸が乱れた。
さっき割れた写真立ての破片。
香奈はサキになんの躊躇いもなく熱湯を浴びせた。
きっと藤にも――。
「や、やめて…」
私の威勢は一瞬で消えた。
腰が抜けたようにその場にへたり込む。
藤は同期で大切な仲間。でも、それ以上に大切な大切な人。
藤だけは…傷付けたくない…。
どうして、こんなことになったんだろう…。
「そうそう。だからってお店辞めてもダメですよ?その時は………分かりますよね?」
私の目から一筋、涙が流れていった。
悲しいからか悔しいからか分からない。
もう感情なんて理解出来なかった。
そんな私を香奈がそっと抱きしめた。
春。
私は社会人四年目になった。
離れたところで、藤と香奈が耳打ちをし合っているのが見えた。
今年も初々しさのある新人が入ってきた。
順番に元気よく挨拶している。
その内一人の新人と目があった。
私は心の中で呟く。
―久しぶり。
香奈がチラリとこちらを見た。
分かってる。
近付くなってんでしょ?
でも…。
悪いね。
私は一年間我慢した。
でも、まだ諦めてない。
…見てな、香奈。
今日から私は自分を取り戻す。
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