新人-11
「びっくりしてますね。残念です、思い出してもらえなくて」
カナがゆっくり近付いてくる。
分からない、分からない。
この子、誰?
「私は知ってますよ、先輩のこと」
カナが近付いて、私は後ずさりする。
うつむき加減の虚ろな瞳が不気味で、思いだそうと頭を働かせるも焦るばかりで一向に思い出せない。
「藤さんは邪魔だったんです。私は好きじゃない。先輩一筋ですから」
私一筋ってどういうこと?
「…近寄らないでよ」
「あのお客さん、サキでしたっけ。大怪我じゃなくて残念です。温度が低すぎでしたね。顔はそのままだった…」
「…来ないで」
「チーフもサキも藤さんも先輩のこと嫌い。私だけなんです、先輩は私だけのものです」
リビングの方に追い詰められて、膝の裏にテーブルが当たった。
チラリと後ろを確認すると写真立てのようなものが目に入った。
「来ないでって!」
私はそれを咄嗟に投げた。それはカナの頬に掠るように当たると、軌道を曲げ壁にぶつかり派手に割れた。
「はっ…はぁ」
カナはその場で歩みを止め、頬を触る。
その手を離すと、カナの頬には少量の血が滲んでいた。
私は怖くなった。
人に怪我を負わせたことに不安を感じた。
もしかして警察沙汰になったりするの…?
「…ハハ、アハハ」
しかし恐怖は別の物へと変わった。
私の心配を余所にカナは笑う。
「先輩に怪我させてもらっちゃった♪」
――?
どうしてそんなこと言えるの。
先程割れた写真立ての写真が剥き出しになっているのが、視界の隅で見て取れた。
その瞬間、体内に警報が鳴り響いた気がした。
見るな。
そう思っていても確認しなければならない。
「…それ、何!?」
私の声が震えた。
その写真は間違い無く私だった。
いつ撮られたか分からないが、最近のものでは無い。
高校生ぐらいの私がそこで笑っていた。
「何であんたが私の写真持ってんの!?」
私はそれを指差しながらヒステリックに叫んだ。
人に対して大声を出したのは生まれて初めてだ。
「あーあ、割れちゃった。勿体無い」
カナが写真立ての側にしゃがみこむ。
髪が前にダラリと垂れてカナの顔を隠した。